現実世界のヤル気がなかなか起きないことを、ゲームの手法を使って楽しく実行・達成しようというのが「ゲーミフィケーション」だと理解しているのですが、それとは逆のアプローチで、人がついついゲームにのめり込んでしまうそのエネルギーを、現実世界での活動エネルギーに転換してみようよ!というこの本を読んで、新しい契約の世界を想像してみました。
幸せな未来は「ゲーム」が創る著者:ジェイン・マクゴニガル
販売元:早川書房
(2011-10-07)
販売元:Amazon.co.jp
思い出話:ゲームが決めた私の就職
思い返せば、「インターネットを支える通信インフラの会社に絶対入ってやる!」と、適当な人間の私が珍しく明確なターゲットを設定して就職活動に打ち込めたのは、1997年にベータ版がリリースされ、日本でもゲームマニアに瞬く間に広まった“ウルティマ・オンライン”というMMO(Massively Multiplayer Online)ゲームにのめり込んだ体験によるところが大きかったのでした。
このゲームは、それまで一人でやるものだったドラクエやファイナルファンタジーのようなコンピュータRPGを、世界中の人たちと一緒にインターネット上でリアルタイムプレイできるようにしたもの。画面上のチャットでベテランプレーヤーとコミュニケーションをとりながら、仲良くなって彼らが不要になったアイテムをもらったりパーティに加えてもらったりするのが早期攻略のコツだったりするわけですが、ソフトウェアは当然のごとく日本語対応しておらず、またゲームに参加する人口比も圧倒的に外国人が多く、英語の不得手な日本人プレイヤー達はなかなか馴染めないという、まるで海外に留学したときの様なサバイバル能力が求められます。
外国人とのコミュニケーションが必要、そして英語ができないと(ゲームの世界の中で)まともに生きていけない・・・それだけでもそれまでのゲームにはない刺激があったのですが、さらに衝撃的なことが。「OHAYO!」「MATA AIMASHITANE」などと日本人同士がローマ字表記でチャットをしていると、それを気味悪がって(もしくはからかって)、「HEY JAP! IT'S NOISY. I'LL KILL YOU!」と外国人プレーヤーたちが日本人を攻撃をしてくるのです。それまでまともに異国文化と触れ合ったことがなかった私にとって、これは価値観を変えるような体験であり、97年当時のインターネットヘビーユーザーを支えた深夜23:00〜のテレホーダイ(ダイヤルアップ接続料金が定額になるサービス)タイムは、ほとんどこのゲームに当てるほどになりました。私にとっては、このゲームがあったからこそ、当時はまだ「こんな信頼性のないネットワークがビジネスの役に立つの?」なんて批判もあったインターネットの価値を信じ、自分の現実の仕事にしてみようと思うことができ、通信会社への就職を決めるエネルギーとなったわけです。
MMOゲームに触発されて「通信会社に入ってインターネットを回線から支えたい」と思うなんて、今考えても単純だなあと笑ってしまいますが、ゲームに熱中しているときの人のエネルギーが相当なものだというのは、この例によらずともみなさん思い当たる節はおありだと思います。話はだいぶ逸れましたが、そんな風に、ゲームの世界で消費しているそのエネルギーを、ヴァーチャルな世界で電源オフとともに消してしまうのではなく、現実世界のポジティブなエネルギーや価値に変換できたら、世界はより良くなる、というのがご紹介の本のメッセージ。
ヴァーチャルtoリアルへのエネルギー変換をどう実現するか
しかし、「ヴァーチャルな価値を現実の価値に変換する」という言葉を聞くと、法務パーソンとしてどうしても気になってしまうのが、RMT(リアルマネートレード)に対する規制です。
正確に言うと、日本にはRMTそのものを直接規制する法律はありません。しかしながら、たとえばゲームの世界で生まれた「仮想的な価値」を「現金」で払い戻す米国のセカンド・ライフのようなサービスを日本で実現しようとすると、
・資金決済法の前払式支払手段払い戻し規制
・出資法の預り金規制
によって取り締まられる可能性があります。
また、最近話題となったコンプガチャ規制の問題も、このRMTの問題と密接に絡んでいます。コンプリートするまでお金をつぎ込ませる・出現率をコントロールできてしまうという問題もさることながら、その裏で、ゴールドファーミングやチート・BOTで量産した仮想通貨やレアカードを、ガチャにのめり込んだユーザーにオークションサイトで高額で販売して儲ける市場が生まれ、その過程に反社会的な勢力が付け込み資金源とするという構造的問題です。ゲーム業界もそういった不正や事件発生の助長を恐れて、RMTを利用規約で規制し、責任を回避しようとしてきたものの、根本的解決に対しゲーム会社が無策であったことが、コンプリートガチャ規制に込められた規制当局や警察権力からのメッセージだった、という声も聞かれます。
こういった障害はありますが、それでも私は、ゲームに代表されるヴァーチャルな世界に閉じ込められていたエネルギーや価値が、リアルの世界にもっと影響を与えていくようになるのだろうと、この本を読み改めて確信した次第。ヴァーチャル to リアルのエネルギー保存の法則を具現化する手段として、技術的な解決が先になるのか、制度や法律の整備が先になるのかはわかりませんが、よくよく考えればもはやリアルの通貨の価値さえももはやヴァーチャルなものになりつつある現代。O2O(Online to Offline)のビジネスが注目されているように、ヴァーチャル to リアルをうまく交換しロスなくリアルのエネルギーにするようなビジネスが次々と生まれ、グレーゾーンの塊のようなRMTに対する規制も乗り越えていくのだろうと思います。
そうなると、貨幣ではない価値をつなぐ/変換するための新しい契約の概念なんかも生まれてきそうです。法務パーソンとしても何か貢献できることがありそうで、ちょっとわくわくします。










