今携わっている仕事に関連して、M&Aの法的知識について整理しているところです。

西村の大部『M&A法大全』にはじまり、最近売れ筋らしい三菱UFJR&Cによる『企業買収の実務プロセス』、その他私が以前M&Aに関わった(途中でポシャったものもありましたが)際に購入した本数冊を改めてひっくり返したりなどしていましたが、先日見つけたこの本がどうやらM&A本の中では決定版のように思います。

アメリカのM&A取引の実務アメリカのM&A取引の実務
著者:伊藤 廸子
販売元:有斐閣
(2009-10-17)
販売元:Amazon.co.jp



数多あるM&A法務の本を分類すると、ほとんどの本が以下いずれかの欠点に該当すると思います。
・戦略立案→LOI→デューデリ→M&A契約締結のプロセスの一部にしか触れていない
・株式買収と資産買収の両パターンに触れず、株式買収にしか触れてない
・法務の専門家(弁護士)が書いていない
・日本法のみを前提にして外国法に触れていない
・分厚すぎて読む気にならない
このすべてが解消されている(おそらく)唯一の和書、と言えば、それだけで魅力が伝わるのではないでしょうか。

まず1章でM&Aを概観した後で、2章でFA・弁護士・環境アドバイザー等の専門家チーム組成を、3章で準備段階で必要になる専門家とのエンゲージメントレター・買収対象会社とのLOI締結の注意点を、4章でデューデリ、5章で株式買収/資産買収の比較、6章で買収契約の条項と、300ページ程度で決して分厚い本ではないのですが、M&Aのプロセスで検討すべき事柄の全てが凝縮されている充実感があります。あと、写真でも伝わればと思いますが、“いい本は目次と索引が整然としているの法則”は、やはりこの本においても正しいことが確認されました!こういう本を作れる著者・編集者の努力と頭の良さに敬服。

IMG_8825IMG_8826


さらに特筆すべきは、『アメリカのM&A―』と銘打っておきながら、9章で日本法における注意点まできちんとまとめられていること。私もそうですが、きっとタイトルだけ見た人は手にすら取らない本になってしまっていると思うので、損しているなあ…。

唯一、あらさがしというか贅沢を言えば、PMI(Post Merger Integration)についての記載があっさりしている点。是非その実務ノウハウを入れていただきたかったかもしれません。PMIフェーズでは悩みは多いもののその実法的観点は少ないので、まあ致し方ないでしょうか。

M&A契約ともなれば、外部の弁護士等専門家を起用する案件になりますし、金融関係で年がら年中M&Aを考えている方は格別、経営者や法務がデューデリや契約条項の細部を覚えている必要はないと思います(覚えたい方を止めはしませんけれど)。逆に言えば、M&Aのプロセスにおいて経営者と法務が見落としてはいけない法的観点だけを体系的に網羅できる本であるところが、この本の素晴らしいところと言えるでしょう。