デジタルコンテンツをネット上で売買したい、しかも簡単・スピーディに。
いつかはできるようになるんだろうと思っていたそれを、とってもシンプルな仕組み&ユーザーインターフェースで可能にし、話題になっているGumroadというサービスがあります。
こういった新しいタイプのサービスを企業として企画開発する際、法務の役割は、取引のどこにリスクが生まれるのか分析し、そのリスクをユーザーとどう分担すべきかを考え、契約や利用規約に落としこんでいくこと。今回は、Gumroadがどうこのデジタルコンテンツの取引におけるリスクをシェアしようとしているのかを、Gumroadの利用規約をリバースエンジニアリングして理解してみたいと思います。
Gumroad自身は「デジタルコンテンツの販売者」ではない
売り手が売りたいコンテンツの紹介文・スクリーンショットと売り値を表示し、買い手がクレジットカードの情報を入力して決済したら、デジタルコンテンツをダウンロードするリンクが表示される。
これがGumroadでできることのすべてです。
日本の紹介記事では「さまざまなコンテンツを簡単に販売することができるプラットフォーム」と表現されています。しかし、Gumroad側が「コンテンツ」を「販売」しているという認識があるかというと、利用規約上はかなり微妙です。規約の冒頭にある前文では、サービスの内容がこう表現されています。
Gumroad provides buyers and sellers (collectively, "Users") an e-commerce engine (the "Service") for the purchase and sale of electronic content ("Digital Goods") via a link (the "Gumroad Link") to a file hosted by the seller ("Seller") or by Gumroad at Gumroad.com (the "Website").
“Gumroadは、ファイルに紐付くリンクを経由してエレクトロニックコンテンツを売り買いするための「e-commerce engine」を、売り手と買い手に提供する”。これが、正しいGumroadのサービスの定義です。あくまでも、売り手と買い手が取引を便利にできる仕組みを提供するだけの存在である、ということです。
このことは、数ページ先の“8. Limitation of Liability”の条文において、さらに明確にされます。
You acknowledge that we are not a traditional auctioneer. Instead, our Service allows anyone to offer, sell, and buy Digital Goods, at any time, from anywhere, in a variety of pricing formats and locations. We are not involved in the actual transaction between Buyers and Sellers. While we may help facilitate the resolution of disputes through various programs, we have no control over and do not guarantee the quality, safety or legality of Digital Goods advertised, the truth or accuracy of User Content or listings, the ability of Sellers to sell the Digital Goods, the ability of Buyers to pay for Digital Goods, or that a Buyer or Seller will actually complete a transaction or return a Digital Good.
「売り手と買い手の実際の取引に介在する立場ではない」「だから、取引されるデジタルコンテンツの中身がどうあろうが、Gumroadは知ったこっちゃない」ということが表明されています。
この2つの条文を見て分かることは、Gumroadは、どうやら「期待された商品を買い手にきちんと納品する」という販売者としての義務を負うつもりはなく、基本的にカード/Paypal決済と引き換えにリンクURLを引き渡す責任しか負わないつもりである、ということ。だからでしょうか、本日現在、Gumroadのサイトにはインターネット通販事業者に義務付けられた特定商取引法に基づく表示すらも見当たりません(それが法的に認められるかどうかは別として)。
ただし、売り手と買い手の間に発生する紛争については、一定の範囲で対応することも表明されています。この点については後ほど改めて言及したいと思います。
売り手の違法な販売行為には事後的対処しかしない
URLにひもづけられるデジタルコンテンツであれば何でも販売できる点は、このビジネスモデルの最大の特徴でありますが、それは便利であるのと同時に様々な危険も伴います。Gumroadにとって、売り手が商品としてどんなものを販売されてしまうかわからない、という危険です。ネット上の反応をみても、「人の著作物を売って稼ぐ輩が出て問題になるだろう」と囁かれていますが、そういうユーザーも既に存在するようです。
Gumroadはこの類の危険に対し、利用規約“7. Content”の項で「販売してはいけないモノリスト」を明示し、これに違反する販売行為にはアカウント停止をすることで、これに対処しようとしています。以下その販売禁止物リスト。私の方でラフな対訳をつけてみました。
promotes racism, bigotry, hatred or physical harm of any kind against any group or individual;
人種差別、偏見、憎悪、その他身体的危害を組織または個人に与えるもの
is intended to or tends to harass, annoy, threaten or intimidate any other Users of the Website or Service;
嫌悪感、困惑、恐怖、畏怖をサイトのユーザーに感じさせるようなもの
is defamatory, inaccurate, abusive, obscene, profane, child pornographic, offensive, obscene or otherwise objectionable;
誹謗中傷的、事実では無い、罵倒をするような、卑猥な、冒涜的な、児童ポルノ的な、攻撃的な、不愉快または好ましくないもの
harmful to minors in any way;
未成年者に対し何らか有害となるもの
contains others’ copyrighted content (e.g., music, movies, videos, photographs, images, software, etc.) without obtaining permission first;
許可を得ずに他者が著作権を持つコンテンツ(音楽、映画、映像、写真、画像、ソフトウェア他)を含むもの
contains video, audio photographs, or images of another person without his or her permission (or in the case of a minor, the minor’s legal guardian);
その人物(当該人物が未成年の場合はその保護者)の許可を得ずに、その人物が写り込んだ映像、動画付写真、画像を含むもの
promotes or enables illegal or unlawful activities, such as instructions on how to make or buy illegal weapons or drugs, violate someone’s privacy, harm or harass another person, obtain others’ identity information, create or disseminate computer viruses, or circumvent copy-protect devices;
違法または不法行為を助長するもの、たとえば違法な武器や薬物を製造する、プライバシー侵害をする、他人を傷つけまたは害する、他者の身分情報を取得する、コンピュータウイルスの作成、コピープロテクトを回避する等の方法を教示するようなもの
intended to defraud, swindle or deceive other Users of the Service;
サービスの利用者に詐欺を働き、騙し、または嘘をつくもの
contains viruses, time bombs, Trojan horses, cancelbots, worms or other harmful, or disruptive codes, components or devices;
ウイルス、時限爆弾、トロイの木馬、キャンセルボット、ワームその他害のあるまたは破壊的なコード、コンポーネントやデバイスを含むもの
promotes or solicits involvement in or support of a political platform, religion, cult, or sect;
政治団体、宗教団体またはセクトへの参加やサポートを宣伝、勧誘するもの
disseminates another person’s personal information without his or her permission, or collects or solicits another person’s personal information for commercial or unlawful purposes;
商用または違法な目的のために本人の許可なく個人情報をばらまく、または収集もしくは提供を促すもの
is off-topic, meaningless, or otherwise intended to annoy or interfere with others’ enjoyment of the Website or the Service;
主題からそれた、意味のない、または他社を煩わせ他社のウェブサイト・サービスの利用を邪魔するもの
impersonates, or otherwise misrepresents affiliation, connection or association with, any person or entity;
人や組織になりすまし、その他関連、関係、結びつきを誤認させるようなもの
solicits gambling or engages in any gambling or similar activity;
ギャンブルその他賭博行為に勧誘するもの
uses scripts, bots or other automated technology to access or scrape content from the Website or Service;
スクリプト、ボットその他自動化技術を用いてウェブサイトやサービスにアクセスまたは収集するもの
uses the Website or Service for chain letter, junk mail or spam e-mails;
チェーンレター、ジャンクメール、スパムメールのためにウェブサイトやサービスを用いるもの
collects or solicits personal information about anyone under 18; or
18歳未満の児童の個人情報を収集し、または提出を勧誘するもの
is in any way used for or in connection with spamming, spimming, phishing, trolling, or similar activities.
スパミング、スピミング、フィッシング、トローリングまたはこれに類似する行為を用いるもの
ご覧のとおり、かなり抽象的かつ広範囲なNGリストです。2文目の”harass, annoy, threaten or intimidate”なんかは、たとえポルノコンテンツでないものだとしても、ちょっと刺激のあるコンテンツは引っかかる感じがしますし、“efamatory, inaccurate, abusive”あたりは、「根拠無き批判的言論」はご法度で「裏取りが確かな学術論文」でも書かせる気かと思わんばかりの文言、かなりGumroad側に都合よく解釈できるような言葉ばかりになっています。実際に何かトラブルがあった際には、このどこかに抵触するという名目で、売り手のアカウントを停止するのでしょう。
検閲を入れずに配布できるようにしている以上、こういう抽象的な言葉で広く制約をかけたくなる気持ちもわかりますが、果たしてその実効性については疑問です。Yahoo!やDeNAなどのオークションサイトがそうであるように、ルールが守られているかをチェックする出品物パトロール隊を置くような措置は、早晩必要になってくるように思います。
買い手が騙された時、Gumroadはどうふるまうのか
Gumroadは、クレジットカード決済を完了させた上で買い手にダウンロードリンクを引き渡すという方法で、取引の迅速化を優先しています。ここで当然に不安になるのが、そのリンクが蓋を開けたらニセモノで、引き渡されるべきものが入ってなかったら?ということ。
この点についてGumroadは、「異議申立て制度」を設けることで、買い手の保護を果たそうとしています。しかし、まず買い主自身が商品がニセモノ・欠陥品であることをなんらかの方法で売り主とGumroadに立証しなければなりません。これに成功してはじめて、Gumroadが売り主のアカウント停止・買い主への返金などの措置をとることになっています。
このことが、利用規約の“4. Buyer Protection”からリンクされた“Buyer Protection Policy”に記載されているのですが、これ、言っちゃ悪いですがとっても読みにくい(何か別言語から直訳したような)英語で、しかも利用規約そのものと同じぐらい長い。そのわりによく読むと「Buyerはこうして、それに対してSellerはこうして・・・」と、それぞれの役割とプロシージャを書いているだけ。売り手も買い手もいざというときにこんな文書に従う人はいないでしょう。
そういう目でもう一度利用規約“4. Buyer Protection”を最初から読みなおしてみると、この冒頭の一文の意図がよく分かります。
Buyers of Digital Goods ("Buyers") and Sellers share the responsibility for making sure purchases facilitated by Gumroad are exciting, rewarding and hassle-free. Buyers and Sellers agree to follow the requirements of the Gumroad Buyer Protection Policy with respect to claims. We may suspend the Gumroad Buyer Protection Policy without notice if we suspect abuse or interference with the proper working of the program.
仕組み上は「双方の間に立って取引が円滑になるような役割を担う」ようで、その実「BuyerとSellerがGumroad上で行う購買行為の責任をシェアする=Gumroadは責任をシェアしない」ということが徹頭徹尾表明された利用規約になっているわけですね。
このような完全自己責任スタンスが、このような新しいweb上の決済円滑化支援サービスにおいてどの程度受け入れられていくのか、先駆者としてのお手並みを拝見しつつ、私も参考にさせていただきたいと思います。
参考リンク:
▼なぜ Gumroad や PayPal が日本から現れないのか(考える日常)
▼Gumroad の危険性について早めに警鐘を鳴らします(物語を語ろう。物語を創ろう。)
▼もしあなたの著作物が知らぬ間にGumroadで売られていたら(RMB)










