契約書に書かれた内容を理解し、あきらめずに相手と交渉して有利な条件で契約することがいかに大切か。法務について詳しくなくても、1回でも契約で痛い目にあったことがあるビジネスパーソンであれば身にしみて分かるその重要性を、それまで痛い目にあったことがないような“無垢なビジネスパーソン”にどうしたら理解してもらえるのか?
twitterを中心にネットでの露出も多く、その豊富な国際ビジネスの経験と親しみやすい解説ぶりで定評のある福井健策先生のソリューションがこの本です。
ビジネスパーソンのための契約の教科書 (文春新書 834)著者:福井 健策
販売元:文藝春秋
(2011-11-18)
販売元:Amazon.co.jp
前半はコラム風であり、後半は明らかに契約の実務ガイド風。
目指したものは、(毎度身のほど知らずとしか言いようがありませんが)「契約の教科書」でした。教科書には実践的な知識と共に、「何のためにそれを学び」「その知識をどう用いるか」が書かれているべきだからです。
このあとがきにあるとおり、前半の約100ページは
・ウルトラマンの国際ライセンス契約にまつわるにわかには信じがたい失敗事例
・ディズニーやハリウッドのようなメジャーを相手にした国際契約交渉場面での“あるある”ネタ
・あなたも利用しているはずのYouTube・Facebookなどネットサービスの利用規約
の3つを主な題材に、「何のためにそれを学び」を理解させるためのコラムに、
そして後半の約100ページは、この本に関する文藝春秋と福井先生との出版契約書(ただし架空のもの)をサンプル契約書に見立てて、
・「契約書」「覚書」などのタイトルの違いは効力に変化を及ぼすか
・「甲乙丙丁」の略称が使われるワケ
・「責に帰する」「不可抗力」「催告」「解除」などの最低限の契約書用語の知識
・書面と印鑑の知識
といったポイントについて、これ以上そぎ落とすのは無理!と思えるほどコンパクトに「その知識をどう用いるか」を解説する実務ガイドになっています。いずれのパートにおいても、それらの知識を使って(初心者なりにであっても)きちんと内容を理解し、相手方と交渉をすることの重要性が説かれているのが印象的です。

この本を読みながら自戒したのですが、毎日契約書に触れる法務部員ならいざしらず、(幹部社員でもない限り)ビジネスパーソン一人ひとり当たりで考えれば重要な契約に出くわすシーンというのは1年に2〜3回あるかないかです。そんな頻度しか必要とされない知識を、法務パーソンと同等レベルに叩きこもうと考えること自体間違いなのではないか、この本の後半の実務ガイドレベルがせいぜいなのではないか、と。
だとすれば、重要な契約書に頻度多く遭遇するであろう幹部社員にこそ研修などで条項レベルでの具体的リスクを叩きこむべきで、メンバークラスの従業員に対しては、この前半のコラムが教えてくれる「何のために契約書の知識が必要なのか」を伝え、必要に応じて幹部社員や法務に相談しながら相手方ときちんと相手方と交渉しようという“姿勢”さえ作れば十分ではないかと。
そして、そんなメンバークラスの“姿勢”を引き出す題材として、ウルトラマン・ディズニー・YouTubeといった誰にでも親しみのあるネタを用いることの効果の大きさを、この本で再確認した次第です。なんてったって、この手の「契約はいかに大事か」という本を何十冊も読んでもう飽き飽きしているはずの(笑)私が面白く読めたのですから。難しい話に興味を持ってもらうにはどうしたらいいかの見本を見せて頂いた気がします。
最後に、法務パーソン向けの蛇足を。
このような削ぎ落としに削ぎ落した200ページあまりの初心者向け「契約の教科書」にもかかわらず、うち7ページも割いて福井先生が最も力強く訴えられているのが、準拠法と裁判管轄条項を交渉することの重要性であるという点は、法務パーソンとして強く認識しておく必要があると思います。
私もこのブログでこの2点にはこだわって交渉すべきというエントリをいくつかアップしていますが、日頃現場に偉そうに契約知識をどうこう語っている私たちが、相手方とのネゴを面倒くさがる現場にほだされてこの2つの条項を交渉することを怠っているとしたら、それは会社に対する背信行為と言っても過言ではありません。ピンとこない方は、是非本書P63以降をお読みになることをお薦めします。









