週末に個人的なプロジェクトに関するリサーチをしていたところ、退職した従業員と企業との間のソーシャルメディア上の紛争事例として興味深いものを2つ見つけました。

1)SNSのアカウント情報を会社に返還させられた事例

Court requires fired social media employee to return usernames and passwords(Internet Cases)

在職中“ソーシャルメディアプロデューサー”を担っていた従業員が運営していたblog・Facebookページ・Twitterカウントについて、企業から管理者としてのアカウントログイン情報の提出を求める仮処分が求められ、認められた話。
2)LinkedIn上の人脈情報・メールデータを会社に返還させられた事例

Court orders ex-employee to hand over LinkedIn contacts(The Telegraph)

退職した会社から、在職中にLinkedIn上で構築した人脈・メールデータ等を引き渡せと訴えられ、労働者が敗訴した話。


ご存知の通り、FacebookやLinkedInは、他のSNSに比べて厳格な実名主義を採用しています。実名を明かした責任の所在の明確な形で担当者が企業の顔としてネット上で顧客と直接つながることにより、ユーザーはこれまでのネット上のやりとりにおける不安感・不信感が払拭されることから、企業のマーケティングツールとして好意的に受け入れられるようになってきました。

従業員の立場から見た場合、冒頭の例のように企業のFacebookページの管理人を務めたり、LinkedInを会社業務で利用する際には、自分自身のソーシャルネットワーク上の人格を所属企業に“レンタル”している感覚があると思います。それによって、望むか望まないかにかかわらず、自分のネットワークにビジネス由来の人脈が混ざってくるでしょうし、メールボックスにはプロジェクトの交渉経緯や請求のエビデンスとなる“価値ある情報”が自然と紐づけられていくことになります。

さて、ここで問題発生です。このように個人の人格・信用をベースとしたソーシャルネットワーク上の企業活動の結果・成果として、その従業員個人のソーシャルネットワーク人格に紐づいて蓄積されていくこれらの“価値ある人脈と情報”の持ち主は、一体誰になるのでしょうか?

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そのものズバリを規定する法律はもちろんありませんが、関係がありそうなものとしてすぐ思い浮かぶのは、著作権法と不正競争防止法です。
メールデータなどは、会社が会社の命令として指示し作成させた文書なのであれば、職務著作として会社に所属する著作権をもとに従業員に返還(現実には複写して提出・使用の差し止め・削除)するよう要求することが理論上可能です。しかし、実際にどれが職務著作なのかを特定するのは難しいと思います。これがさらに人脈情報となると、誰かと誰かがくっついているというステータス情報に「著作物性」があるとは思えませんので、著作権法を根拠とした請求は難しそうな気がします。
では、不正競争防止法の営業秘密という構成で、人脈情報の利用差し止め等を求めることはできるでしょうか?これもよくよく考えれば、そもそも公開が前提のソーシャルネットワーク上の情報では、営業秘密の要件としての「非公知性」がありませんので、適用は無理でしょう。

この二法が適用できないとして残る手段は、一般法としての民法上の不法行為に基づく損害賠償請求等ですが、会社として従業員のweb人格を利用しておきながら、「不法行為性」を主張するのは無理筋かと思います。フツーの裁判官からみれば、お互い様でしょ?という判断になるんじゃないかというのが私見です(その他アプローチによっては商標法も論点がありそうですが、ここでは割愛)。


以上を踏まえると、企業の立場からは法律を振りかざした防御策をとるのは難しそうです。企業が従業員個人の人格・信用を利用して営業活動をする以上、ある程度の“価値ある情報”が個人の人格に紐づくのもいたしかたなしと、覚悟をしたうえでやらせるべきと私は思います。

その上で、冒頭ご紹介した外国紛争事例を反面教師とすれば、退職時にあわてて情報を取り上げようとするのではなく、予め従業員と特約を結び、ソーシャルネットワーク人格で実施した業務により従業員が得た成果を定期的に報告させて、さらに本人とは別に会社としても情報をバックアップしておくべきなのでしょう。

いや、そもそも論として、企業として持っていかれたら困るような“価値ある情報”であるというのなら、FacebookやLinkedInの従業員個人アカウントで取り扱わせること自体を再考する方が、現実的かもしれません。