先月このブログで著書を2冊紹介させてもらったからでしょうか、それとも最近オフィスでもとなりのシマで並んでお仕事させて頂くようになった近所のよしみでしょうか(笑)、海老原さん自ら発売前の新著を直々に献本くださいました。ありがとうございます。


日本人はどのように仕事をしてきたか (中公新書ラクレ)日本人はどのように仕事をしてきたか (中公新書ラクレ)
著者:海老原 嗣生/荻野 進介
販売元:中央公論新社
(2011-11-09)
販売元:Amazon.co.jp




海老原さんの得意技といえば、「昔ながらの日本の雇用の常識」のウソを、データをもとに次々と暴くおなじみのあのアプローチ。しかしこの本ではデータではなく、人事のプロを目指すなら必ず読んでおくべき正統派の名著13冊を発行年順に紹介・引用し、その発行された当時の人事トピックスを紐解きながら、シロウトがまことしやかに語るウソを正していくという、ちょっと変わった手法をとっています。

時代背景・歴史に沿って日本の労働の変遷を語る名著としては、濱口先生の近著『日本の雇用と労働法』があり、こちらもとてもすばらしい本なのですが、法律視点というよりも、人事実務の視点から日本の雇用を捉えなおすこのアプローチの方が、特に社会人経験が長い方には実感も伴ってよく理解できるかも。

そしてこの本がすごいのは、自説の正しさを証明する材料として名著を紹介・引用しているだけではなく、その著者本人に手紙という形で意見・疑問をぶつけ、著者からの回答まで載せるという公開書簡交換スタイルで展開していくところ。例えばこれは「拝啓 清家篤様」とそれに対する清家氏の返答より。

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私は、スペシャリスト型人材育成に対しては賛成です。
また、給与のフラット化もある程度は進むべき、という点でも全く同意見です。
ただし、これらの施策により、労働流動性が著しく上がる、とは考えていない立場です。
なぜか?
清家さんも『定年破壊』の中で、「企業内特殊熟練について触れていらっしゃいますが、私は、先生よりこれを重要視しています。そこがポイントです。(中略)つまり、他社では使えない、企業内特殊熟練が積み重なる。そうでなければ、全ての業務を士業に外注しているはずです。だから、専門職だってやはり一企業に長居した人間は特殊熟練の塊となり、転職可能性が減る。欧米(にはセニョーリティがありますが)でも日本でも、40代が転職できないのはそのへんに事情があるのだと思っております。(海老原)
ただ、企業や雇用者が長期的な関係維持を望んでも、関係が流動化せざるを得ない事情が強まってくるのも確かです。一つは個人の職業人生が長くなったこと、もう一つがグローバル化、IT化と言った影響で、企業経営に不確実性が高まったことです。好むと好まざるとにかかわらず、一人の人間の雇用が1社で完結しないケースが増えていきます。(清家)


学術論文などでは、名著の権威を借りて、自説に都合のよい記述だけを引用することは古今東西よく行われています。しかし、そうやって名著をダシにするのではなくて、「ここはむしろこうなんじゃないでしょうか?」といった疑問形の手紙をしたためる格好で、権威ある著者本人にある種の挑戦状を叩きつけながら読者・著者と一緒に考察を深めていくこのスタイルは、“ソーシャル学術論文”とも言うべき、新しい学術論文のあり方を見ているような気分にさえなりました。