私の法務経験の中で、会社という存在についての価値観を大きく変えたのが、株主総会の事務局業務です。
取締役会の意向を調整しながら議案をまとめ、参考書類等を間違いのないように作成し、総会の会場を手配するばかりでなく、数百問に渡る想定問答を用意し、当日は議場で議長の真後ろに座り、インカムマイクを使って会場の係員や裏方と連絡を取りながらリアルタイムに集めた情報を議長にインプットしたり、株主からの質問に対して法的なポイントをその場で整理し助けるために、株主席からは見えないような死角に設置した書画カメラを使い、議長席に置かれたテレビモニタ上に“カンニングペーパー”を瞬時に映し出しながら、議長の総会議事進行を補助します。正確な会社法知識はもちろんのこと、スピーディにミスなく書類を仕上げる事務処理能力、総会で繰り出される株主のあらゆる質問に対し回答を作るだけの事業全体の知識、そして臨機応変・当意即妙な対応能力が問われる仕事です。
会社からミッションとして与えられる事務局としてのゴールは一つ。
大株主・個人株主のみなさんに貴重な時間を頂いてお集まり頂く以上、効率的に、かつ法的要件を満足するように遺漏のない会議を運営し、予め提出された議案について結論を出すこと。
議決については、実際のところ大株主との調整も済んでいて、議案が会社提案どおり可決されるかどうかが当日まで心配される総会というのはほとんどなく、いわば出来レースです。そのような状態での「会議」の効率性を考えると、会議の目的である議案の決議に関係の無い質問・発言は、株主総会においてはすべて不規則発言=時間の浪費と位置付けることになります。もちろん、大株主の議決に影響を与えるような新事実が当日の議場から出てくるという展開も完全には否定できませんが、事前質問として提出されていなければ実際にはその可能性はありません。ですから、事務局としては総会当日の議場における株主の発言については、それが総会の目的である議案の決議に関係がないことが会社法314条に照らして法的に判断できれば、無視はしないまでも、時間を浪費しないために質問を“捌く”対応をとったりもします。
総会事務局の経験が浅いうちは、こんな出来レースの一翼を担うという仕事、それにかかるパワーと金、それでも物見遊山に参加する個人株主の不規則発言に、バカバカしさを禁じ得ない自分がいました。でも、その業務を何年か続けて私がたどり着いた答えがあります。
株主総会とは、
1)決算
2)監査
3)議案に関する取締役会決議(特に取締役・監査役候補者の人選)
4)事業報告・監査報告・参考書類等の作成
5)招集通知と参考書類等の送付
6)委任状勧誘・議決権行使書類の回収
7)当日の議事・決議
8)決議の報告
以上のような法に定める手続きに従い、株主一人ひとりが、1年に1回定期的かつ強制的に、自らが所有する会社のあり方を振り返るというプロセス全体に価値があるのであって、総会当日の議事はあくまでその一部に過ぎないということ。そして、当日の議事はもちろん大切な一部ではあるけれど、ほとんどは総会の議案と取締役・監査役候補人事案が決定する3)が完了した時点で株主の多数派の委任を受けた取締役が取締役会で議論を尽くして決定したものなのであって、株主の多数派が総会当日になって反対するはずもなく、すでに「勝負あった」なんだなあと。株主の多数派が会社のあり方を振り返った結果「変えなきゃ」と考えるとすれば、それは総会当日ではなく、3)が決まる時点こそがポイントなのだと。
それでもなお会社法が少数派にも株主総会に参加する権利を与えた意味はなんなのか。私は、株主の多数派の代理者たる取締役が1年を振り返るプロセスに透明性を担保することで、そのプロセスを見た少数派が株を買い増して多数派を目指すか否かの判断材料を提供することにあるのではないか、と思います。
▼東京電力の株主総会 原発撤退提案の株主VSあっさり「反対」経営陣(毎日jp)
大企業が株式を互いに持ち合う日本で、株主総会は会社提案を追認するだけのセレモニーになりがちだ。東京電力の大株主には東京都のほか、銀行、生命保険会社など大企業がずらり。議長は会社側が、大株主から過半数の委任状をもらっていることを明かした。要するに、採決は“茶番”なのだ。
だが、事故を受けて個人株主たちは肉声を会社にぶつけた。「津波対策を無視した人災だ。現役員と元役員は私財で償ってほしい」という質問に、武藤栄副社長(61)は「法令基準に従ってきた」と法律を盾にした。「事故直後にデータを隠したために放射能汚染が広がってしまった。あなた方は責任を取っているのか」との質問に、小森明生常務(58)は「情報については当社ホームページなどで発信に努めていきたい」とにべもない。企業対個人。この日の対立軸が鮮明になってきた。
東京電力の株主総会が少数派にとって理想的でなかったとすれば、それは会社を批判するというよりも、その1年の振り返りを通じた取締役の発言・態度に滲み出る多数派大株主の「現状・現体制追認」の姿勢に対する不満なのだと認識し、怒りや批判の矛先を正しい方向に向けるべきだと思います。そして残念ながらその不満の解消策は、株主総会で取締役を批判するという手段ではなく、ほんとうの勝負の場である取締役会に代理人たる取締役を送り出せるくらいに多数派から株を買い増し、来年の定時または臨時株主総会で現状・現体制追認の姿勢を株主として改める議案を提出させることしかないのかもしれません。
一方で多数派も、変化を認めない硬直的なコミュニケーション・態度を必要以上に見せることで、現実的には会社のファンであるはずの少数派株主さえもだんだんと会社から離れていくリスク(株価の更なる下落)を真剣に考えておく必要はあるでしょう。私が事務局業務をやっていたときは、作成する参考書類の言葉遣いに気を使ったり、当日の進行シナリオに議長が議場全体に視線を配るような指示を必要以上に入れたり、想定問答にあえて取締役=大株主にとって耳の痛いQAを入れたりという小さな抵抗で、少数派というファンに微かでも希望を感じ取ってもらえるような工夫はできないかと考えていました。
株主総会の事務局とは、現実的には大株主と取締役の意向に忠実に、当日の出来レースをつつがなく終わらせることを使命として帯びながらも、その裏では、利害が対立する多数派株主と少数派株主の情報共有や意思疎通が出来る限り円滑になるように、そしてその結果会社のファンたる株主が一人でも多く生まれるようできることを考える仕事なのではないかなと、私は思います。










