これからの企業法務において、契約にかかるコストを下げること、そのための手法としての約款理論を理解することは、とても重要になっていくだろうと私は考えます。

誰もがインターネットを使うようになり、かつグローバル化した社会においては、世界中にある数百・数千・数万社の候補の中から取引先を選べるようになります。取引先が選べるのであれば、コスト削減の追及とリスクマネジメントの観点から考えても、取引先を分散・小口化していくことを企業は望むでしょう。そうなると、取引にかかるコストの中で、契約交渉を重ねて契約書を作成しサインを交わして・・・という契約コストさえ、削減の対象になるはずだからです。

振り返ってみれば、企業と個人との間の契約は、そのほとんどが約款による契約だったりします。今あなたがネットにつないでいるプロバイダ契約、PCに含まれるライセンス契約、生命保険契約なんかは約款による有償契約の代表的なものですし、TwitterやFacebook、私が利用するlivedoorブログなどは無償とはいえこれも約款による無償契約です。企業からすれば、いちいち個人と契約条件について交渉などしていられません。なので約款を提示してそれに同意してくれる人にだけ商品やサービスを提供するわけです。このスタイルが、上述した理由で、企業間の取引においても加速していくだろうと考えています。

事実、複数社から「ネット上で企業間契約を自動化する仕組み」について検討しているという声を実際に聞いています。ここでいう契約の自動化とはすなわち「約款による附合契約」。商品やサービスの品質や価格に加えて、契約にかかる取引コストの削減が企業競争力を左右する時代がくる。これは想像ではなく、現実なのだと思います。

そんな近い将来に備える一冊として、この本を推薦します。

約款による契約論 (信山社双書)


英、独、米を中心に、各国の約款を用いた契約に対する法規制、判例等をつぶさに検討しながら、比較法学的に日本の約款規制の今を分析する本。

約款による取引は、事業者が自分に一方的有利な条文を定めがちなため、国によっては法律で直接規制している国もあります。また、契約相手への契約条件の認知のさせ方にも、規制の温度差があったりします。
たとえば、約款をURLで表示して契約申込みボタンを押させる一般的な手法について、ドイツでは
顧客の申込表示のフォームに、約款が明白で誤解を生じさせない形で組み込まれていれば足りる。例えば、「全ての申込と取引は、当社の『XYZ』番号の下で呼びだせる約款を基礎としてなされるものとする。」という挿入文言で足りる。
のに対し、イギリスでは
相手方にとって不利な条項については、前述のように特別に顕著な手段が要求されているから、ハイパーリンクによる手段では不十分とされることになる。従って、この条項を提示するのにハイパーリンク手段を使用する企業は、不意打ち条項及び免責条項に就いては約款本文から切り離して、実際の注文フォームに移しておくことがベストと言える。
とあったりと、グローバル化する取引の中で約款で取引しようと思うならば、この辺りは今からおさえておく必要がありそうです。

現在の日本には、このような具体的な約款に対する法規制は(消費者契約法の一部を除き)特にありませんが、現在法制審議会で検討されている民法(債権法)改正議論では、日本において約款理論に一家言お持ちの内田先生の影響もあり、約款規制が入る可能性が高くなっています。諸外国の約款規制を学び、それに備えておくのも一考でしょう。