iPhoneアプリ型電子書籍におカネを出して買うのは、この本で3冊目。
1冊目は、自分が共著者でもある『ITエンジニアのための契約入門』。
2冊目は、堀江さんの『拝金
そして3冊目がこの『iPadがやってきたから、もう一度ウェブの話をしよう』です。


梅田望夫 iPadがやってきたから、もう一度ウェブの話をしよう



電子書籍というと、まだ日本ではKindleもiBooksも(出版社との権利関係のいざこざもあって)普及していない中で、とかくアプリの見やすさ・使い勝手に目がいきがちですが、その点だけ言えば文字のサイズが変更できなかったり、インデックス、しおり機能がなかったりとイマイチな作り。しかし、その不便さを上回ってあまりある「電子書籍である意味」を追及したものになっています。

その1つが、とりあげているテーマのタイムリーさと洞察の深さの両立
iPad、iPhone、Kindleによって今まさに進行する世の中の変化を、本よりも早く、かつ雑誌よりも深く分析しています。校了から出版まで少なくとも2〜3か月かかる紙の本よりも、やはりネタが新鮮で、今聞きたいwebの未来の話を専門家の視点から聞きたいことが深く聞ける、そんなところに価値を感じます。

たとえば、なぜGoogleのアンドロイド陣営がスマートフォン市場で(端末数は売れても)覇権を握れない理由について、梅田さんの質問に対しゲストである中島さんが“往復書簡”という形式で答えているこんなところ。少し長くなりますが大変興味深いお話だったので、部分部分を引用させて頂きます。
モバイル・コンピューティングの市場はパソコンのような「どんなシーンでも使える汎用デバイス」が支配するのではなく、キンドルやブラックベリーのような特定用途のデバイスと、iPhoneやiPad(そして近いうちに出てくるだろうiOSを搭載したAppleTV)のような汎用ではあるけれどそれぞれのシーンで使い分けるようなデバイスとが混在しており、ウインドウズのように「ユーザーエクスペリエンスまですべてOSが提供」ということにはとても実現しにくいということです。
それに加えて、マイクロソフトとグーグルでは、誰が「最終的なユーザーエクスペリエンスの責任を持つのか」という部分ですいぶんスタンスが違うように思えます。アンドロイドの場合、HTCやソニーエリクソンのように独自のUIを載せるところまで出て来ています。(略)ウインドウズパソコンでは決して許されなかったことですが、「ユーザーエクスペリエンスの責任を持つのはメーカー」というスタンスのグーグルはそれを容認しています(これに関しては、最近になって少し軌道修正をかけようという試みが行われていますが、オープンソースの性質上、なかなかうまく行っていないようです)。
そんな今の状況を見ると、アンドロイド・デバイスは数だけは出るでしょうが、それが90年代にウインドウズが勝ち得たようなデファクト・スタンダードになれるか、というといささか難しいのではないかと私は見ています。

そして、このようなグーグルの戦略に対し、アップルの戦略がいかに優れているかを、共著者の中島さんならでは技術者の視点を交えて考察してくださっています。
アップルの戦略で私が賞賛しているのは、単に「自前のブラウザーを作る」だけでなく「Webkitをオープンソースにした」点にあると思います。
「ウェブの世界でリーダーシップの地位を築くには、スタンダードを決める立場にならなくてはならず、そのためにはその標準実装をオープンソースの形で提供しなければならない」と認識したアップルは、サファリを作っただけでなく、そのHTML描画エンジンであるWebkitをオープンソースにしたんです。その結果、HTML5/CSS3の主要な機能はアップルが提案した通りになったし、Webkitはモバイルの世界でのデファクト・スタンダードになりつつあります。
自らWebkitを作っているアップルには、当然Webkitの内部構造に詳しいエンジニアがたくさんいます(略)。オープンソースで提供されたWebkitを、その中身も良く理解する時間も与えられずに自社のデバイスに載せなければならない他のメーカーのエンジニアには、そこまでの余力も時間もありません。その結果、同じWebkitを搭載したアンドロイド端末のブラウザーがiPhoneのそれと比べてずいぶん見劣りがする、という状況になっています。
つまり、一見グーグルに比べて閉鎖的・独りよがりに見えるアップルだけれども、ユーザーエクスペリエンスのキモを握るブラウザの技術をオープンソースにするという戦略によって、今の優位性を築くことに成功したというわけです。なるほど、わかりやすい。

そして、電子書籍ならではの特徴の2つめが、読者との交流の要素・インタラクティブ性を備えていること。この電子書籍は、このアプリからのみアクセス出来るURL上で、発売後の今も梅田さんと中島さんの対談形式での記事がアップデートされ続けており、そこでは読者から寄せられた質問に梅田さんと中島さんが答えながら、ITとWebの未来が語られています。

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この電子書籍を体験して、これまで有料メルマガという“無形”のメールというスタイルで行われてきた専門家としての「洞察の提供」・「読者とのインタラクティブな交流/意見交換」に対する課金を、タイムリーかつ消費者が気持よくお金を払える電子書籍という“半有形“のパッケージに姿を変えて提供していくという手法への変化によって、電子書籍ならではの面白い取り組みができるのでは思った次第。

私自身も、電子書籍の次回作を検討する際には、そんな要素も意識的に入れてみたいと考えています。