「iPadも出たし、書籍の電子化しようと思うんだけど、著作権的にどんなことに気を付けたらいいんですか?」

最近人からこのネタを振られたり、見解を求められたりすることが増えています。が、著作権法上多岐に渡る論点があるため、どこからどこまで話せばいいか迷うことも多くて困ってしまいます。

そこで、これからは「リスクについてはこのエントリに書いてあるから読んどいて」で済ませられるようw、書籍電子化の違法性とグレーゾーンについて要点を5点にまとめておきました。

1)業者にスキャンしてもらったらほぼ違法

えーと、すみません。早速あらゆる書籍電子化代行サービスが違法になっちゃうような物言いですが(笑)。こんなエントリも上げて合法化支援をしてる立場であるという前提で、今日はあくまで現行著作権法上のリスクの話ということでご容赦を。

その根拠は条文の文言。
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる

私が手元に持つ著作権法の専門書を見渡しても、業者に複製(=電子化)を代行させた瞬間に、著作権法30条1項により認められる「私的使用目的の複製」とはならなくなる旨の見解が共通して書かれています。例えば、最近お気に入りの島並良先生の本『著作権法入門』によれば、
30条1項により適法な複製となるためには、私的に「使用する者」自身が複製することが必要である。たとえ私的使用目的であっても、例えば複製業者に依頼して複製させる場合には、大量になされることで著作権者への経済的打撃が増大する可能性があるので、権利は制限されない。(P161)
つまり私的使用目的の複製とは言えなくなる、と。

なおこのようなカタめの解釈に対し、業者を「複製(=電子化)行為の補助者」と考えれば法律の出る幕はないのでは?という意見もあります。ただしこの点に関しては、中山信弘先生の本『著作権法』の解釈によると、
本人と同一視できる補助者による複製は許される。(P245)
例えば子供、あるいは身体障害者で自ら複製することのできない者が、家族・友人等以外の者に依頼して複製する行為も許されて然るべきであろう。(同)
とあり、少なくとも“業者”としてスキャン代行作業で対価を得ている限り、「本人と同一視できる補助者」とは抗弁しにくいのではないかと思われます。

2)他人のスキャナを使ってスキャンしたらグレー

業者に頼まない“自炊”でも、自分で買って所有しているスキャナで電子化しなかった場合は、グレーゾーン突入です。会社に高速スキャナがあるからちょっと使わせてもらおう、なんてパターンは実際によくありそう。

なおこの点については専門家の中でも見解が分かれており、中山信弘先生はOK派、三山裕三先生はNG派です。ちなみにそのNG派の三山先生『著作権法詳説―判例で読む16章』の見解は以下。
三〇条は許諾を原則とする著作権制度の例外として自由利用を許容していることから、できるだけ厳格に解釈しなければならないとされ、使用者本人が機器を操作する場合であってもコイン式のコピー機や学校、会社に設置してあるコピー機のように自己の支配下に属さないコピー機による複製の場合は、三〇条の適用外とされている。(P217)

コンビニなんかにコピー機感覚でスキャナがおかれて、1枚5円とかでスキャニングできるサービスがこれから増えそうな予感もしますが、これはどうでしょうか。

実は著作権法では、原則として「公衆の使用に供することを目的として設置される機器」(つまりコンビニのコピー機等)による複製は、原則として私的使用目的の複製とならない、つまり違法となる旨が規定されています(30条1項1号)。しかし、特例として「専ら文書又は図画の複製に供するもの」つまり公衆に置かれたコピー機であれば私的使用目的の複製に使わせても「当分の間」は違法にならないという複雑な時限立法がなされ、今のところ許容されているだけなのです。

本当は公衆コピー機は違法にしたいんだけど、世の中が納得してくれないのでしょうがなく認めてやるか、といった規定がいつまでも残っているという状態なので、今後、立法当時は想定されていなかっただろう公衆スキャナーまでを含んで合法とされ続けるかはかなり疑問です。この時限立法がいつまで続くか、ちょっと注意が必要でしょう。

なお、現行の著作権法が成立した後の昭和51年9月に開かれた著作権審議会第4小委員会報告書においても、
本条は使用する者が自ら行う複製行為を許容したものであることから、本条の趣旨として自己の支配下にある機器によるべきことが要請されているものと理解すべきである。
と言及されています。

3)業務に用いる本をスキャンするとグレー

以前にも関連するエントリを上げたことがありましたが、これが一番キツイ制約かもしれません。

著作権法が許容する「私的使用目的のための複製」には、「業務利用目的のための複製」は含まない、だから仕事に使う本を電子化するのはグレーゾーンということ。たとえば、私は会社でコンプライアンスの仕事をしていますが、その私が仕事で使っている六法全書・法律の参考書・分厚い契約の教科書の類を電子化してiPadで会社に持って行き、仕事に役立てようというのはNGだということです。

この点はTwitterで島並良先生からツッコミを頂いて気付かされた問題点。一応合法説もあるようですけれど。

書籍を裁断機にかけて、スキャンスナップでPDF化するという作業が、複製権侵害になるかは、面白い論点だ。仕事(学者の在外研究も含む)で使う荷物を軽量化するために行った場合、私的使用目的ではないというのが通説。島上横『著作権法入門』162頁は、「個人的」使用目的なので適法との立場。less than a minute ago via web


先にご紹介した著作権審議会第4小委員会報告書においても、
その個人が何らかの組織の一員としてその組織の目的を遂行する過程において複製する場合は、本条に該当しないものと考えられる。私的な領域のものであるか公的な領域のものであるかを明確に区分することが困難な場合もあるが、一般に複製する者が所属する組織の業務にかかわる場合は、私的な領域における複製に該当しないものと理解すべきであろう。
と言及されていて、これが通説化しています。

法律の専門書でない単なるビジネス書なんかでも、読んでその内容を自分の肥やしにする以上なんらか仕事でも生かされるはずなわけで、逆に仕事で絶対使わないと言い切れる純粋な娯楽本の方が少ないですよね。そうなるとほとんどの本が自炊すらできなくなるという罠。これが通説とされてしまうと皆さんも結構キツイはず。

4)電子化したファイルを他人に譲渡・貸与するのは違法

さすがにこれは法律論を振りかざすまでもなく、常識で考えれば違法なのは分かるでしょ・・・と思いきや、たまに分からない方がいらっしゃるようです。

どうやらそういう方の頭の中は、「自分が買った本を、自分が手間をかけて電子化したんだから、そのデータの財産権は俺のもんだろ!」という理屈のようですが、その電子化したデータを価値あるものにしているコンテンツは、あなたが自炊する手間の数百倍苦労されて著作者さんが創作されたものであるということを、どうぞお忘れなく

5)電子化したファイルをクラウドにアップするのはグレー

そして、これからクラウド時代に入ろうというのに、最後の鬼門とも言うべき問題が。

メモリの容量も限られているiPhone/iPadでいつでも自分が買った本を読めるようにするためにも、DropBoxなどのクラウドストレージサービスにアップして、必要なときにダウンロードできたら便利です。ところがこれは、著作権法上はかなり濃いめのグレーゾーンになってしまいます。

オンラインストレージに著作物をアップロードして使うことは著作者がもつ「公衆送信権」という権利を侵害することになる、という確定判決が2007年に出ているためです。その名もMYUTA事件。地裁判決なのですが、控訴されずに一審判決で確定してしまいました。

えぇ〜、自分のPCのハードディスクだったらOKなのに、クラウドに借りたサーバー上のハードディスクだったらダメなの?IDとパスワードで自分しかアクセスできないんだから「公衆送信権」なんて侵害しないでしょ?と文句を言いたくなるのはわかるのですが、MYUTA事件の判決では、こんなことが言われているのです。
本件サービスは,前記1(1)認定のとおり,インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話(ただし,当面はau WIN端末のみ)を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照),ユーザは,その意味において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。よって,本件サーバからユーザの携帯電話に向けての音源データの3G2ファイルの送信は,公衆たるユーザからの求めに応じ,ユーザによって直接受信されることを目的として自動的に行われるものであり,自動公衆送信(同法2条1項9号の4)ということができる。
つまり、IDとパスワードさえ合ってれば誰にでもダウンロードできるんだから公衆送信だ、というわけです。公衆送信権は複製権ではないので、私的使用目的であっても無条件に適法化されることにはなりません。

この理屈でいくと、Gmailの添付ファイル然り、Evernoteでキャプチャした画像ファイル然り、クラウドに誰かの著作物をアップロードするときには、いちいち公衆送信権の許諾をとらなくてはならないという理屈に。合法なクラウドストレージって存在しうるんでしょうか・・・。


以上、どう考えても便利になるはずのテクノロジーがそこにあるのに法律がまったく追いついていないという現状、そして書籍を電子化して堂々とビジネスシーンで役立てようというのは、法令遵守の観点からはだいぶ勇気がいる状況だということが、お分かりいただけたかと思います。

なお、本エントリは、あくまで現行著作権法における書籍の電子化リスクを皆さんに正しくご理解頂くことを目的としています。業者さんや自炊をしている方々を批判する目的のものではありません。

私も、権利者の利益を尊重するかたちで、堂々と合法的に書籍の電子化が出来るようになる日を、心待ちにしている者の一人です。