先日、ひょんなことから、アメリカで特許権侵害が発生した場合に特許権者としてどう対抗すべきかという話題になり、
「アメリカじゃ日本と違って特許権侵害に刑罰ないからな」
という話を聞いて、え、そうなの?と内心あせった私。なにせアメリカ特許法なんてほぼお世話になることがないので。
調べてみたら、特許権侵害に対しては確かに刑事罰はないんですね。
懲罰的損害賠償は抑止力として十分?
そのことをtwitterでつぶやいたところ、こんな反応が。
mohno: でも“懲罰”的賠償金制度はありますね。特許も著作権法も「結局は金の問題」ということではあるのでしょうが。 RT @isologue RT @takujihashizume …アメリカの特許法には刑事罰が規定されていないこと…ついでに著作権法も刑事罰はあるけど適用がかなり限定的…
hiroxaito: @takujihashizume 特許法について、「フェアユース的」だとおっしゃるココロは?米国特許法にはwillful infringementに対する懲罰的損害賠償の制度があり、民事において懲罰による抑止力までをも期待しているということだと思います。
それでもまだ2つばかり、もどかしさの残る部分があるのではと思っていた次第。
1)実損が発生するまで、抑止力が期待できない
損害の発生と関係のない懲役や罰金がないということは、特許権侵害の事実やそのおそれを把握していても、損害が発生していない段階での抑止力は期待できない、ということになろうかと思います。
また、懲罰的損害賠償の額も、その金額は実損をベースとする補償的損害賠償額が算定の基礎となる以上、侵害の実損額が小さければ抑止力は期待できません。
刑事罰がないことで、実損が溜まりに溜まるのを待たないと抑止力が発生しない、つまり侵害初期段階で相手を叩きにくいということになりはしないかと。
2)日本では懲罰的損害賠償部分は執行できない
アメリカの民事訴訟で勝利をおさめ、首尾よく懲罰的損害賠償を認める確定判決を得たとしても、日本で執行となるケースでは懲罰的損害賠償の部分は無効となり、補償的損害賠償のみしか認められないという最高裁判例があるのはご存知の通りです(萬世工業事件平成9年7月11日第二小法廷判決)。
刑事罰があれば、それこそアメリカで刑務所にぶち込んでもらったり、罰金をとってもらったりして気も紛れようものなのに。
特許権を楯にグローバルに戦われている企業の知財部さんは、これで果たしてもどかしさを感じていらっしゃらないのでしょうか・・・。
フェアユースにも共通して垣間見える、アメリカ的なるもの
日本の知的財産権法は、
・侵害の抑止は(横領罪なみに重く設定された)刑事罰で
・財産的救済は民事の損害賠償で
というのが立法の思想。
刑事罰はあえて置かず、侵害が発生したら民事の出たとこ勝負でどうぞ・負けると痛い目に遭うけどね!というアメリカ的発想は、法思想として日本のそれとは全く別物なのだなあと改めて感じた次第。
ちょうど日本の著作権法界隈では今、アメリカを見習ってのフェアユース導入論真っ只中だったりもします。このフェアユースも、懲罰的損害賠償がありうるアメリカ著作権法だからこそ、バランスよく成立していると言えます。
日本では、フェアユースに当たらないと判断されると、理論上は著作権侵害の重い刑事罰の対象になってしまうことになり、そのことがフェアユース導入慎重派からも指摘されているところ。
とはいえ、実際に刑事罰を課せるかというと、出たとこ勝負のアメリカ的法思想に倣って導入する以上それは難しいのではというのが専門家の見解。BLJの09年1月号のフェアユース特集でも、中山先生が
実際は刑罰規定で困ることはないと思います。フェアに当たるかどうか分からないものでは警察も謙抑的になりますね。なんておっしゃっていたように。
しかしそうなると、懲罰的損害賠償を課すことはできない日本における著作権侵害の抑止策は、実質被害者からの補償的損害賠償請求のみとなり、これで果たして抑止になるのだろうかという疑問が残るわけです。
今更なにをと言われるかもしれませんが、国策として知的財産権を中心とする国家戦略をうたう一方で、侵害からの保護のための抑止については国は知らぬ存ぜぬ、民事で勝手にやってくれというような発想を背景にもったアメリカ的法理論を持ち込もうというのは、やはりどこかで無理が祟るのだなあと。
フェアユース、結局自分は賛成なのか反対なのか。全くわからなくなってきました。










NBL 10月15日号(No.915)
「環境・エネルギー技術等の普及に向けた新たな知的財産制度(ソフトIP )研究会の概要」
を読むともっとわからなくなるかとw