たまに更新されるカナダの弁護士さんのブログで、カナダに在住しながらアメリカ企業にレポートをする労働者と企業との紛争についての記事が。

Governing Law, Appropriate Jurisdiction and a Plea for Employment Contracts(Thoughts from a Management Lawyer)
The Court of Appeal considered the one-page written employment contract and noted that it did not express the governing law nor that the contract represented the entire agreement of the parties. As a result, which law governed the relationship was "a live issue" that would have to be decided by the trial judge.

日本企業においても、外国人を雇って海外からレポートさせたり、日本人を海外に駐在させたりする機会が結構増えていると思います。

その際結構盲点になりそうなのが、「準拠法」と「裁判管轄」についての合意の有無についてです。


「法の適用に関する通則法」による原則

ビジネス上の国際契約では当たり前に入れる準拠法や裁判管轄の規定も、就業規則/労働契約にきっちり入れている会社は、日本ではまだ少ないと思うんですよ。

で、そのままだとどうなるかというと、特に準拠法のほうは結構面倒なことになりそう。

まず原則論としては、ご存知の方も多いと思われる「法の適用に関する通則法」により、
(当事者による準拠法の選択)
第七条  法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
(当事者による準拠法の選択がない場合)
第八条  前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
2  前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。 (後略)
つまり、8条1項の「法律行為に最も密接な関係がある地」を優先するか、2項の「主たる事業所の所在地」を優先すべきかを争うことに。

企業としてはそんな争いには巻き込まれたくないので、
(当事者による準拠法の変更)
第九条  当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。
この9条に基づいて、就業規則/労働契約に準拠法や裁判管轄を明確に定めておこう、となるわけです。


通則法にさりげなく「労働契約の特例」が新設されていた

が、しかし。
労働契約については通則法に改正される前の旧“法例”には存在しなかった特例が新設されていて、事態はさらに複雑に。
(労働契約の特例)
第十二条  労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2  前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3  労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

どういうことかというと、就業規則/労働契約で準拠法を制定していても、労働者がその勤務地の強行法規の適用を主張すればそれが適用される上、準拠法を選択し忘れた場合には勤務地法の適用が推定されてしまい、8条でいう「法律行為に最も密接な関係がある地」や「主たる事業所の所在地」がどこであったかという点について、企業から争う余地はほぼなくなってしまうということ。

労働契約の内容が一部現地国の強行法規に規制されるのは致し方ないとしても、人材とビジネスのグローバル化に備えて、せめて紛争になった際の準拠法と裁判管轄は定めておかないと、企業としてはとっても面倒なことになりそうです。

グローバルな視点を持った気の利いた社労士さんだと、ここら辺までアドバイスしていたりするのでしょうか(残念ながらあまりそういう社労士さんにお目にかかったことがないのですが)。