不況下において、会社が取りうる人事的施策(リストラ施策)の選択肢を、通常考えられる実行順位の順番にフルメニューで挙げてみますと、

・請負契約解消
・派遣契約解消
・時限的賃下げ・人件費削減
・休業・ワークシェアリング
・内定取消
・有期雇用契約解消
・無期雇用契約解消

こんなところになるでしょう。

これらを実行する際に発生する法的なリスクを一言で言えば「労務リスク」になるわけですが、関連法令だけ挙げても民法、労働契約法、労働基準法、労働組合法、職業安定法、労働者派遣法、社会保険各法、税法・・・と、たくさん出てきますし、加えて人の感情という要素もあります。とても「労務リスク」という一言では語りつくせない、絡み合った糸のように複雑な問題が内包されているのが、労務問題の難しいところです。

このように数多ありかつそれぞれが微妙に異なっている人事的施策実行時の法的リスクについて、一つ一つ章を分けて丁寧に解きほぐして解説するという、ホネのある作業をしてくれている本がこちら。

不況下の労務リスク対応



混迷する労働法制の今だけでなく、未来をも整理する

各章が、安西、森・濱田松本、アンダーソン・毛利・友常などに一線級の事務所に所属する労働法弁護士による解説、という豪華さ。

1章1章の濃さもなかなかのもの。
例えば、休業の問題を一つとってみても、休業補償等の労基法上のリスクと対応だけにとどまらず、民法536条の危険負担の規定に基づく労働者からの差額全額請求などの民事上のリスクをどう避けるかといった、かなり詳細な論点までフォローしています。

さらにこれに加えて、巻頭特集には野川忍先生と水町勇一郎先生が労働法の今と未来を語り合う豪華対談を持ってくるという、贅沢極まりない構成。

今、大きな変化の中で労働法が直面している課題は社会の変化の高速化や複雑化に対応できる法制度にすることだと思います。
人びとの平等や人間の生命・健康に係わるような問題、さらには大きな政策の方向性については、法律で国が定めると言うことを前提としながら、その具体的な在り方については現場の実態に合った当事者の話し合い、労使のコミュニケーションを促し、それを尊重するという手法をとることが、これからの労働法の在り方としては重要ではないかと思います。
と水町先生が語れば、野川先生も負けじと
私はちょっと水町先生と違った視点から将来的な課題が何かというと、基本的に日本の企業は立派だと思っていますが、雇用ルールについては甘やかされてきたように思います。
例えば有給休暇であるとか、労働時間については、企業がこれだけのことをやらなければいけないというはっきりとした基準をさらに厳格に定めていくべきだと思います。
ここで従業員代表制を法制化して、労働者がいろんな選択肢をもとに交渉力をバックに使用者との合意を進めていくようになるべきだと思います。
と、自論を交え大いに語っていらっしゃいます。

18頁に渡るお二方の対談は、終始相性のいい先輩と後輩による建設的な議論となっていて、深い共感を覚える発言ばかり。
この対談を読むだけでも、人事部門や人材サービスに身を置く者に当然に求められる、混迷する労働法制の「今」を客観的に分析する視点と、「未来」を提案していくための大きなヒントが、たくさん得られると思います。