先日、ある会合でこの本の著者、吉川達夫先生とお話をする機会に恵まれました。

このブログでも数冊ご紹介しているように、「NY州弁護士 吉川達夫」のクレジットが入った本を目にすることは多いものの、あまりメディアには登場されない吉川先生。
どこかの事務所に所属されているおとなしい学者肌の弁護士先生、といったイメージを勝手に抱いていたのですが・・・実際にお会いした吉川先生は、仕事も遊びもバッチリこなす、カッコいい大人のオジサマでした。

それもそのはず、この本の奥付の著者略歴にもあるとおり、吉川先生はNY州弁護士でいらっしゃる以前に元商社法務部で16年、そして今もなお外資系IT企業で法務本部長を務められている、超一流の現役ビジネス法務パーソン

しかも、多忙を極める中複数の法科大学院で講師も務め、このように本も書いているという・・・。いつ本を書く時間があるんですか?と尋ねると「飛行機の中なんか、とってもはかどりますよね」なんてさらりとおっしゃる。タフな方ってこういう方をいうんだろうなあと。

そんな吉川先生自ら、「これは結構いいですよ」とお奨めいただいたのがこちらの本。

国際ビジネス法務―貿易取引から英文契約書まで



国際ビジネスの心得から実務までをコンパクトに網羅

先に結論を言っておくと、さすが吉川先生ご自身が自信作とおっしゃるだけあって、内容充実のすばらしい本なので、国際ビジネスに関わる方であれば買って損はありません。

第1部では、国際ビジネスの法務の何が難しいのかを、準拠法の問題、知財紛争の問題、労務の問題に分けてポイントを絞って解説し、

第2部では、貿易実務を通して、安全保障貿易管理など輸出入に関わる法規制、インコタームス、信用状などの貿易実務、それらを踏まえたSales Note(売買契約)について具体的に解説し、

第3部では、
1)Distributor Agreement(代理店契約)
2)Service Agreement(業務委託契約)
3)Non-Disclosure Agreement(守秘義務契約)
4)Memorandum of Understanding(意向書/覚書)
5)Joint Venture Agreement(合弁契約)
6)Termination Agreement(解除契約)
7)Settlement Agreement(和解契約)
の7つの英文モデル契約を逐条式で解説するという、

かなりな広範囲をカバーした、欲張りの構成。

特に、他の国際法務本にはない特徴が見られるのが、株式会社クボタ法務部の方がメインで書かれた第2部の貿易実務をからめた解説部分。
船荷証券や信用状の実物を見ながら、ディスクレ(信用状記載の条件と船積書類上の記載が異なること)で支払い保証機能がなくなる問題など、実務でどんなところがリスクになりやすいかを知ることで、それこそ商社の法務の方でもなければ契約書上は適当にスルーしてしまっているような国際ビジネス法務の怖さ・要点を教えてくれます。
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このあたりの充実ぶりは、これから国際法務をバリバリやるぞという新人法務パーソンだけでなく、海外営業パーソンにも参考になるはずです。


「国際取引はたまに」という法務パーソンにこそ

しかし、実のところ、国際ビジネスに毎日のように関わる方以上に、
「ウチはドメドメで国際取引の頻度は少ないから」
とか、
「基本的に渉外事務所に任せちゃうからな」
とか思っている、“基本国内法務、ときどき国際法務”な法務パーソンこそ読むべきなのがこの本ではないかと。

前職時代は私も国際法務に携わっていましたが、商売がら役務系の契約がほとんどで、売買契約なんかは年に数回あるかないかという程度。
ちょっと難しいものになると渉外事務所にお任せをしたり、それほどリスクがなさそうな売買契約であれば、信用状のチェックポイントだのインコタームスのFOBだのCIPだのの違いから生まれるリスクを、その都度いろんな本でばらばらに調べたり上司に聞いたりしながら、今思えば取引の全体像も把握せずかなり適当にチェックしていたように思います。

そんな私が今この本を読むと、断片的に理解していたチェックポイントの数々が有機的に繋がって見えてくるのです。

国際取引は滅多に発生しない=逆に言うとたまには発生するという、その「たまに」にこそリスクは潜んでいるわけで。
普段から国際取引に慣れっこな人よりも、そんな「国際取引はたまに」な法務パーソンが読んでこそ、まさに転ばぬ先の杖とも言うべきこの本の真価が発揮されるのではないかと思います。