ケース
Xの取引先Aが不渡手形を出した。XはAとの間で販売と買入れを双方行っている関係にある。
XのYに対する債権は5,000万円で、来月末日を支払期日とするA単名手形を受領している。
Aに対する債務は3,800万円で、今月末日1,600万円、翌月末日1,200万円、翌々月末日1,000万円の支払期日が到来する。
問題
設問(1)
Xはその債務合計3,800万円について、相殺を理由に支払いを拒否できるか。
設問(2)
今すぐ相殺できるか。XとAとの契約上の特約により結論は異なるか。
設問(3)
Xの債務について、Aの債権者や税務署から差押・仮差押・債権譲渡・転付命令などがあったとき、Xの相殺できる地位はどうなるか。
設問(4)
Xの営業責任者が、「相殺後の不足分1,200万円については、Aから商品を買え。買えなければ強引にでも勝手に取って来い。買いの支払い分と相殺してしまえ。」と言っているが、問題はないか。
設問(5)
Xの経理責任者が、「Bが1,200万以上の債務をAに負っているようだ。ちょうどBに支払う分が今月2,000万円あるので、うち1,200万円分について当社のAに対する債権をBに受け取ってもらってはどうか。Bは譲り受けた債権とAに対する債務を相殺すれば、代金受領と同じことだ。」と言っているが、問題はないか。
設問(6)
設問(4)(5)について、法的倒産手続きに入った場合はどうか。
回答
設問(1)
できない。XのAに対する債権5,000万円の履行期は来月末日であり、相殺適状にない。
設問(2)
特約が無い状態では相殺適状になく、今すぐ相殺はできないが、信用不安等を理由とする期限の利益喪失条項を設けることにより、相殺することはできる。
設問(3)
何ら影響はない。ただし、Xが受動債権につき差押等のあった後に自働債権を取得していた場合は、Xが相殺することはできない。
設問(4)
商品を購入することにより相殺額を同等にする手段は有効であるが、その手法はAから了解を得た上で行うべきであり、強引にまたは勝手に行った場合は不法行為となり相殺はできない。
設問(5)
Bが債権をXから譲受け、その対等額をAと相殺することは可能である。
設問(6)
破産法、民事再生法、会社更生法において、支払停止があった後に債権を取得した当時、支払いの停止があったことを知っていたときには、その債権債務を相殺の対象とできない旨規定されている。
従い、本ケースでAが法的倒産手続きに入った場合には、(4)においてXはAとの債権債務を相殺できなくなり、(5)においてはBはAとの債権債務を相殺できなくなる。
要復習ポイント(自分用メモ)
・相殺適状となる前に、受動債権に対し差押や債権譲渡に基づく
通知が行われたとしても、自働債権者にとって将来相殺できる
という期待がある以上、相殺を持って差押債権者・債権の譲受
人に対抗できる(判例)。
・破産法71条および72条、会社更生法49条、民事再生法93条に
より、支払停止があった後に債権を取得した当時、支払いの停
止があったことを知っていたときには、その債権債務を相殺の
対象とできない。
(ビジネス実務法務検定試験1級公式テキスト Case30を基に検討)









