「企業は人なり」と言いながら、M&Aにおいては後回しにされたり軽視されがちな人事のこと。

この本は、日本でM&A案件を最も多く手がける事務所といっても過言ではないであろう森濱田松本法律事務所が、人事のデューデリジェンス、リストラクチャリング、労使紛争、企業年金再編の問題までを、幅広く、しかし丁寧に解説する本です。

M&Aの労務ガイドブックM&Aの労務ガイドブック
販売元:中央経済社
(2009-10)
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労務という“聖域”

法務に携わっている方でも、よっぽど労使紛争が激しい会社にお勤めでなければ、労働法について詳しい方は少ないと思います。

しかも労働法は、条文よりも行政通達や判例知識がないと理解できないという厄介さも備えている法律です。そのせいで、労務の世界は、勤続年数の長い経験豊富な人事マンの“聖域”になってしまいがち。

そんなところが、M&Aにおいて人事デューデリがおざなりになる理由の1つかもと思っています。


聖域に切り込むデューデリ

この本は、そんな“聖域”をどう切り崩し、リスクの所在を解明していくかというデューデリのパートが秀逸です。

労働法に詳しくない方でも、違法な人事制度によくあるパターン、違法性の根拠・考え方、特に注意すべきポイントが見抜けるよう、端的に、かつ丁寧に解説しています。

森濱田松本法律事務所が労働法に強いという印象はなかったのですが、法律そのもののポイントを冗長にならないよう解説したうえで、「固定残業手当制」や「年俸制」という成果主義的人事制度の名の下に時間外手当を払わない事例などを引き合いに労務リスクを鋭くえぐる姿に、この本の著者(高谷先生率いる同事務所の若手アソシエイト)のM&Aの労務問題に対する深い理解を感じます。

私の部署では、人材紹介のサービスを提供するクライアントが法令に違反するような労務環境に無いか審査をする業務があります。当然ながら労務デューデリの視点と私の審査の視点には重なるところがたくさんあり、日常業務にもダイレクトに役立っています。

転職を考えている方で、転職先の労務環境に不安を感じている方にも応用が利くかも?と思ったり(ただし質問の仕方はオブラートに包む必要がありますね)。