“試用期間”のことって、人を採用する度に必ず発生する問題の割には、webの世界はおろか労働法の基本書でもあまり整理されておらず、適当な解説で済まされているところなので、以下によく問題となる論点と知識(判例・通達等)をまとめてみました。
1)基本的な法的性質
困ったことに、“試用期間”の法的性質は法律上明確に定義されていません。
(そのくせ、労働基準法第21条には「14日を超えない「試の使用期間中の者」については解雇予告の義務なし」という法的“効果”だけが規定されていたりするのでややこしいのですが・・・)
そんな試用期間ですが、裁判例(*1)および判例(*2)上、長期雇用システムの下で行われている通常の試用は、「解約権留保付労働契約」と解するべきであることが判示されています。
*1 東京コンクリート事件 東京地決昭32・9・21
*2 三菱樹脂事件 最大判昭48・12・12
なお、学説上“試用期間中(本採用前)の雇用契約”と“試用期間終了後(本採用後)の雇用契約”を別々の契約と考える考え方もありますが、上記裁判例および判例では、別々ではなく、連続した一体の雇用契約と考えることが前提となっています。
2)解約権の行使=試用期間中の解雇は、どんな場合にできる?
解約権の行使、つまり解雇は、試用期間中であればどんな場合でもできるという誤解が生じがちです。
判例(前掲*2)では、その制約について以下のように判示しています。
「試用期間の結果本採用はしない」と結論を出すということは、基本的には「雇用契約期間中の解雇」と同じ。
従い、通常の解雇においても求められる「合理性」「社会通念に照らした妥当性」が必要とされることとなるので、試用期間といえども決して自由に解雇することが認められているわけではない点に注意してください。
ただし、同判例(前掲*2)では、このような留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべき、とも判示しています。
以上をまとめると、解約権を行使できる条件は基本的には通常の解雇と同様であるが、解雇の適法性が紛争になった場合に、結果として(気持ち)使用者側の判断が肯定されやすい(*3)という程度に考えておけばよいかと思います。
*3 欧州共同体駐日代表部事件 東京高判昭58.12.14
ブレーンベース事件 東京地判平13・2・27 他
3)試用期間の長さに制限はある?
法律上、明確には長さ制限は存在しません。
しかし、合理的理由もないのに長期間の試用契約を設定することは、公序良俗違反(民法90条)として無効となる恐れがあります(*4)。
*4 ブラザー工業事件 名古屋地判昭59・3・23
紹介予定派遣の派遣期間が、2004年の労働者派遣法改正により、従来の1年→6ヶ月上限と変更されたことからも、目安としては最長でも6ヶ月が限度と考えておくのが適切かと思います。
1年を超えるとほぼ公序良俗違反となると考えた方が良さそうです。
参考までに、厚生労働省の平成16年調査によれば、99.1%の企業が試用期間を6ヶ月未満にしているとのこと。
▼厚生労働省 第47回労働政策審議会労働条件分科会資料
4)試用期間中は社会保険は適用しなくていいんだよね?
これもよくある誤解。
「試用期間中の社員は、健康保険や厚生年金保険の適用除外である“臨時に使用される者”にあたるので、社保は適用しなくてよい」と思っている経営者・人事担当者がいらっしゃいます。
中には、そういうアドバイスをする社会保険労務士もいるとクライアントから聞きます。ったくとんでもない輩がいるものです。
無期雇用の正社員や、有期雇用であっても契約期間が2ヶ月以上となる契約社員・パート・アルバイトについては、健康保険法や厚生年金保険法により、入社日から社会保険の加入義務が発生します。
これに関しては「事業所の内規等により一定期間臨時又は試みに使用すると称し又は雇用者の出入頻繁で永続するか否か不明であるからと称して取得届を遅延する者等は臨時使用人と認められず、雇入れの当初より被保険者とする」という通達(*5)も出ています。
*5 昭26・11・28保分発第5177号
5)試用期間だと解雇できるか曖昧なら、短い有期雇用契約を結べばいいんじゃないの?
最近、試用期間を設定しても簡単には解雇できないと気付いた企業が、当初3ヶ月程度は有期雇用(いわゆる契約社員)で働かせ、この期間の働きぶりを見て無期雇用(いわゆる正社員)に登用しよう、という動きが活発になっているようです。
この点、有期の雇用契約期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の定めのない労働契約の下の試用期間(解約権留保期間)と解すべきと判示した判例があります(*6)。
*6 神戸弘陵学園事件 最三小判平2・6・5
従い、試用目的で契約社員として雇い、気に入らなければ期間満了で解雇すれば解雇の問題は生じないだろう、という悪知恵も通用しない場合があるということです。ご注意ください。
試用期間についての定義・規制の立法化を求む
実務上ほとんどの労働契約において慣行的に設定されているわりには、専門家でさえその法的性質・効果について説明するのが困難な「試用期間」。
労働契約法の検討過程で、試用期間についての明文化の議論もあったと聞きますが、いまからでも労働契約法を改正して、試用期間についての規定を置いた方が、使用者も労働者も混乱が無くて済むと思うんですけどね。
参考文献など:
労働法の基本書の中で、これら試用期間についての主な論点が判例も引用する形でちゃんと整理されているのは、私が知る限りでは菅野先生の本ぐらいだと思います。
web上のソースで信頼できるものとしては、独立行政法人労働政策研究・研修機構のサイトをご紹介しておきます。
▼個別労働関係紛争判例集:試用期間
▼労働問題Q&A:試用期間にはどのような法的な意味がありますか。
1)基本的な法的性質
困ったことに、“試用期間”の法的性質は法律上明確に定義されていません。
(そのくせ、労働基準法第21条には「14日を超えない「試の使用期間中の者」については解雇予告の義務なし」という法的“効果”だけが規定されていたりするのでややこしいのですが・・・)
そんな試用期間ですが、裁判例(*1)および判例(*2)上、長期雇用システムの下で行われている通常の試用は、「解約権留保付労働契約」と解するべきであることが判示されています。
*1 東京コンクリート事件 東京地決昭32・9・21
*2 三菱樹脂事件 最大判昭48・12・12
なお、学説上“試用期間中(本採用前)の雇用契約”と“試用期間終了後(本採用後)の雇用契約”を別々の契約と考える考え方もありますが、上記裁判例および判例では、別々ではなく、連続した一体の雇用契約と考えることが前提となっています。
2)解約権の行使=試用期間中の解雇は、どんな場合にできる?
解約権の行使、つまり解雇は、試用期間中であればどんな場合でもできるという誤解が生じがちです。
判例(前掲*2)では、その制約について以下のように判示しています。
「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」
「試用期間の結果本採用はしない」と結論を出すということは、基本的には「雇用契約期間中の解雇」と同じ。
従い、通常の解雇においても求められる「合理性」「社会通念に照らした妥当性」が必要とされることとなるので、試用期間といえども決して自由に解雇することが認められているわけではない点に注意してください。
ただし、同判例(前掲*2)では、このような留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められてしかるべき、とも判示しています。
以上をまとめると、解約権を行使できる条件は基本的には通常の解雇と同様であるが、解雇の適法性が紛争になった場合に、結果として(気持ち)使用者側の判断が肯定されやすい(*3)という程度に考えておけばよいかと思います。
*3 欧州共同体駐日代表部事件 東京高判昭58.12.14
ブレーンベース事件 東京地判平13・2・27 他
3)試用期間の長さに制限はある?
法律上、明確には長さ制限は存在しません。
しかし、合理的理由もないのに長期間の試用契約を設定することは、公序良俗違反(民法90条)として無効となる恐れがあります(*4)。
*4 ブラザー工業事件 名古屋地判昭59・3・23
紹介予定派遣の派遣期間が、2004年の労働者派遣法改正により、従来の1年→6ヶ月上限と変更されたことからも、目安としては最長でも6ヶ月が限度と考えておくのが適切かと思います。
1年を超えるとほぼ公序良俗違反となると考えた方が良さそうです。
参考までに、厚生労働省の平成16年調査によれば、99.1%の企業が試用期間を6ヶ月未満にしているとのこと。
▼厚生労働省 第47回労働政策審議会労働条件分科会資料
4)試用期間中は社会保険は適用しなくていいんだよね?
これもよくある誤解。
「試用期間中の社員は、健康保険や厚生年金保険の適用除外である“臨時に使用される者”にあたるので、社保は適用しなくてよい」と思っている経営者・人事担当者がいらっしゃいます。
中には、そういうアドバイスをする社会保険労務士もいるとクライアントから聞きます。ったくとんでもない輩がいるものです。
無期雇用の正社員や、有期雇用であっても契約期間が2ヶ月以上となる契約社員・パート・アルバイトについては、健康保険法や厚生年金保険法により、入社日から社会保険の加入義務が発生します。
これに関しては「事業所の内規等により一定期間臨時又は試みに使用すると称し又は雇用者の出入頻繁で永続するか否か不明であるからと称して取得届を遅延する者等は臨時使用人と認められず、雇入れの当初より被保険者とする」という通達(*5)も出ています。
*5 昭26・11・28保分発第5177号
5)試用期間だと解雇できるか曖昧なら、短い有期雇用契約を結べばいいんじゃないの?
最近、試用期間を設定しても簡単には解雇できないと気付いた企業が、当初3ヶ月程度は有期雇用(いわゆる契約社員)で働かせ、この期間の働きぶりを見て無期雇用(いわゆる正社員)に登用しよう、という動きが活発になっているようです。
この点、有期の雇用契約期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の定めのない労働契約の下の試用期間(解約権留保期間)と解すべきと判示した判例があります(*6)。
*6 神戸弘陵学園事件 最三小判平2・6・5
従い、試用目的で契約社員として雇い、気に入らなければ期間満了で解雇すれば解雇の問題は生じないだろう、という悪知恵も通用しない場合があるということです。ご注意ください。
試用期間についての定義・規制の立法化を求む
実務上ほとんどの労働契約において慣行的に設定されているわりには、専門家でさえその法的性質・効果について説明するのが困難な「試用期間」。
労働契約法の検討過程で、試用期間についての明文化の議論もあったと聞きますが、いまからでも労働契約法を改正して、試用期間についての規定を置いた方が、使用者も労働者も混乱が無くて済むと思うんですけどね。
参考文献など:
労働法の基本書の中で、これら試用期間についての主な論点が判例も引用する形でちゃんと整理されているのは、私が知る限りでは菅野先生の本ぐらいだと思います。
web上のソースで信頼できるものとしては、独立行政法人労働政策研究・研修機構のサイトをご紹介しておきます。
▼個別労働関係紛争判例集:試用期間
▼労働問題Q&A:試用期間にはどのような法的な意味がありますか。









