企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

法務パーソン人事評価の方法論—ビジネス法務12月号座談会で司会を務めました

 
10月21日に発売されたビジネス法務12月号の特集「実例・アイデアを大公開 法務人材の『評価』」で、座談会の司会を務めさせていただきました。

この記事では、本座談会が開催されるまでの経緯について、少し舞台裏をご紹介したいと思います。

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『実践 ゼロから法務!』の打ち上げにて


昨年のことになりますが、柴山吉報他著『実践 ゼロから法務!』に短い経験談を寄稿させていただく機会に恵まれました。この本では、一人法務として法務機能を立ち上げ、上場を経て、千人単位の組織へと拡大していく過程における組織マネジメントの難しさについて、至らない法務マネージャーだった自分の恥ずべき「黒歴史」を思い切って書いています。

同書がリリースされてしばらく経ち、打ち上げを兼ねて著者の皆さんや担当編集者さんとの飲み会があったのですが、その飲み会の中で、「法務人材の評価」に関する情報が世の中にほとんど出回っていないことが話題にあがりました。

法務パーソンを評価することの難しさについては、法務のマネジメントをご経験されたことのある方ならいやがおうでも感じていらっしゃるのではないでしょうか。それにもかかわらず、具体的な方法論が共有された書き物を見たことがない。ぜひ「ビジネス法務」のような専門誌で、こうしたテーマを取り扱ってほしい。そんなことを熱く語ってしまいました。

すると、その飲み会が終わって間もなく、中央経済社さんから「あの宴席でおっしゃっていた法務人材の評価を特集したいのですが」という相談が舞い込みました。ミイラ取りがミイラになるってやつです(笑)。

結果、座談会の企画と司会役を仰せつかることになった、という顛末です。

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法務パーソンの評価方法に悩むマネージャーの皆さんに役立つ記事を


企画にあたって特にこだわったのは、以下の点です。

  • 企業のステージや所属する業界によって、法務部門の役割・法務人材に求められる能力・評価基準は異なる
  • だからこそ、法務パーソンの人事評価方法について、全員に当てはまる「正解」は存在しない
  • しかし、各社がどのような「方法」や「視点」で法務を評価しているかを共有することで、新たなヒントを提供できるかもしれない

そんな思いから、座談会にご登壇いただく方々については、こうした企画の趣旨を汲んで情報を快くご提供いただけそうな経験者として、流通・メーカー・商社・ITの各業界から偏りのないよう、以下の皆様にお集まりいただきました。

- 青谷賢一郎さま(株式会社ニトリホールディングス 上席執行役員)
- 白石弘美さま(株式会社日本HP 取締役 法務・コンプライアンス本部長)
- 瀧川英雄さま(ミスミグループ本社 執行役員)
- 守田達也さま(双日株式会社 常務執行役員)
- 吉田成希(株式会社マネーフォワード 法務知的財産本部)

具体的な方法論を一つでも多く集める


当日の司会進行を務めるにあたっては、ご登壇者それぞれの方法論や視点を深掘りし、多くの実践的なアイデアを聞き出すことを目指しました。

また、ご登壇者の皆様には、お忙しい中、「これまで実際に採用した、もしくは検討した法務人材の評価方法」を事前に書き出していただきました。その上で、座談会当日は提出いただいた資料をベースに、実際の評価運用実態について口頭で補足をいただくような形でお話を伺いました。

この進め方が功を奏したのか、想定以上に多様な評価方法のアイデアをお伺いすることができ、短い時間の中でディスカッションも充実した内容になりました。

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さらに、こうして集まった法務パーソン人材評価方法のアイデアは、編集担当の方に表形式で整理していただき、座談会の後ろに付録としてまとめています。このまとめのおかげで、読者の皆様にとっても、すぐに参考にできる実践的な情報をお届けできる形に仕上がったと思います。

法務のマネジメントに課題を感じていらっしゃる中堅層の皆さまに、多少なりともお役に立つであろう特集になっているかと思います。ぜひご一読ください。
 

法務パーソンのためのブックガイド「法律書マンダラ2024」


今年も新年度にあわせて“マンダラ形式”の法律書ブックガイドを更新し、2024年版としました。Google Slideで公開しています。企業法務に関心のある方や、新たに法務部門に配属・異動された皆様のお役に立てれば幸いです。

スライド内の書名がアフィリエイトリンクになっており、Amazonでそのままご購入いただけます。なお、マンダラ内ではスペースの都合で一部書名を略しています。リンク先では正式書名をご確認いただけますのでご了承ください。


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以下、2023年版から追加・入替した書籍について、各分野ごとにコメントさせていただきます。

・コア領域

全分野のコアとなるL1に、新たに『情報法のリーガル・マインド』を入れました。同書は新著ではないものの、近年変化の激しい情報法・知的財産法分野を中心に、商品・サービスの品質表示責任、果てはコーポレートガバナンスまでをカバーしており、10年先を見通せるブレない幹となるような考え方を示してくれる書籍だと思います。

・契約・商取引法

以前から、L2に江頭『商取引法』を置くのは重たいなあ…と気になっていたところ、L3へ移動させた同書への橋渡し役として、新たに『民法とつながる商法総則・商行為法』を入れました。

・消費者法

手薄だったL2エリアに2冊追加です。ステマ・No.1表記等に代表される不当表示の取り締まりは厳しさを増しており、各社法務部門においてここ数年注力すべき法分野と感じています。にもかかわらず、通称「緑本」と呼ばれる『景品表示法』しか推薦できる書籍がなかったわけですが、昨年その入門編という位置付けの『はじめて学ぶ景品表示法』が刊行されました。また、景表法以外の表示規制である特商法や薬機法などについてもカバーした『インターネット広告法務ハンドブック』も新たに推薦しています。

・情報法

拙著ですがL2にようやく5年ぶりの改訂にこぎつけた『利用規約の作り方』を復活させていただきました。L3には、待望の第2版が刊行された『クラウド管理の法律実務』を入れています。

・知的財産法

この分野は昨年から(法改正に伴う改版を除き)入れ替えはしていません。なお、音楽著作権に関するおすすめ書籍のお尋ねをいただくことが増えており、その際には、CD・レコード時代の音楽著作権を中心に細かい実務を抑えようとする2分冊の某書よりも、YouTube動画等での著作権処理を中心とした『音楽・動画クリエイターの権利とルール』をおすすめしています。

・M&A・経済法

先日本ブログで書評した『起業家のためのリスク&法律入門』をL2に入れました。同書はスタートアップに生じる法的リスク全般の概説書でもありますが、中でも資金調達まわりの法律解説がわかりやすく秀逸なため、L3にある『中小企業買収の法務』や『スタートアップ投資ガイドブック』への橋渡し役としてここに置いています。

・会社法

会社法分野の文書デジタル化の指南書として昨年は拙著をリストしていましたが、これを削除し、最新の法改正や電子署名技術を踏まえ緻密に書かれた『商業登記のデジタル完結/完全オンライン申請の実践』を新たにL3に加えました。

・訴訟法

昨年大きくラインナップを更新したので今回はほとんど変化がないものの、いわゆる「司法のIT化」が今後どんなスケジュールで進められていくのかを知っておくことは必要と思われ、『民事裁判手続きのIT化』をL2に加えました。

・その他諸法

金融のデジタル化に伴う諸法律の概説書として新たに『詳解デジタル金融法務』を、また昨今の生成AIに関する実務書は好著がたくさんありどれを入れるべきか迷った結果、『生成AIの法的リスクと対策』を入れています。


なお、この“マンダラ形式”のブックガイドのアイデアは、山口周著『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』からお借りしています。重ねて御礼申し上げます。

【本】『Legal Operationsの実践』−ALSPの普及によって問われる法務部の存在価値

Legal Operations(リーガル・オペレーションズ)とは、

経営の視点で法務を捉え直し、法務をより経営に役立つものに変革していく取組であり、専門職(本書「はしがき」iより)
ACCの2022年調査によれば、弁護士資格を持たないLegal Operationsのシニアポジションの基本報酬(インセンティブ・ボーナスを除く。)の中央値が3,700万円を超えている(P4より)

とのこと。

私はてっきり、「法務業務の現場における効率化・カイゼン活動」程度の浅い認識をしていましたし、職人気質の法務パーソンからは、彼らが忌み嫌う「攻めの法務」のことばかりを考えるものと誤認されている節もあるように思います。

米国企業で生まれたこの概念を正しく広め、日本企業にどう適用していくべきかについて、実際に日本企業で先進的にリーガル・オペレーションズを遂行する経験者たち26人が寄り集まり、生の体験談を交えて書かれたのが本書です。


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本書を購入する直前に、編者でありCLOC Japan発起人でもある鈴木卓先生よりそのお考えの一端を拝聴していた上、本書の元になった商事法務ポータルでの連載も熟読していたつもりでしたが、書籍化にあたり連載内容がブラッシュアップされただけでなく、途中途中に「Interview」コーナーで企業内でのリーガルオペレーションズ導入の苦労話などが新たに加えられたことで、没入感を持って一気に読了してしまいました。

そのポイントを私なりに一言でまとめるならば、「会社の全容が見えている(つもりの)法務だからこそ、人の振り見て我が振り直せ」です。

法務という仕事が、所属する企業の行動を法令等に照らして客観的に評価し、リスクを抽出・解消する立場であることからか、自身の業務も客観視できているという自己評価に陥りがちです。しかし、その所属企業・業界ごとのその特殊性にかまけて仕事をタコツボ化させ、効率化や高度化を怠っているような事例も見聞きします(自分を振り返ってもそれは否定できません)。

本書でいうLegal Operationsの実践とは、そうしたタコツボ化を回避するためにも、CLOCが取りまとめたフレームワークである「CLOC CORE 12」にまとめられた視点ごとに、法務組織のが陥りやすいワナや至らぬ点を自覚することからスタートします。


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では、自組織の至らぬ点が自覚できたら、それをどう直せばいいのでしょうか?多くの読者が、解決に役立つおすすめのリーガルテックでも紹介してくれるのかな?と期待するでしょう。しかし、「CLOC CORE 12」には、組織が目指すべき方向性は示されていますが、具体的なソリューションやツールまでは示されていません。だからこそ、本書の存在価値があります。

本書では、自組織の課題を発見した法務パーソンたちが、企業の中で実際にどのように振る舞いその解決に向けた行動をしているのかを、現在進行形で具体的に語ってくれています。これをそのまま真似すれば同じように成功できるという保証はないものの、同じような境遇に陥った法務パーソンが、どのぐらいのエネルギーと行動量を使って当該所属企業内でその課題をクリアしてきたのかを知ることは、手掛かりとして大変参考になる情報です。


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リーガル・オペレーションズの概念が日本でも普及する中で、私個人にとって最も関心があるテーマが、ALSP(Alternative Legal Service Provider)の未来です。

ALSPは、一般に、従来の法律サービスを提供する法律事務所以外の者で、伝統的な法律事務所のモデルとは異なる新しい手法(法務領域以外を含むコンサルティングやテクノロジーの利用)で、リーガルサービスを提供する会社等の組織を指す。(P156)

つまり、弁護士等有資格者ではない法人に対し、法務業務をアウトソーシングするというもの。日本では弁護士法の壁があると言われ、米国においても全く規制がないわけではありませんが、既成事実として大企業を中心に急速に普及しています。十数年前にこのブログのタイトルに「サバイバル」を冠したのも、まさに法務組織のアウトソーシング化が進み、自身の存在価値がより厳しく問われるようになるのではという危機感からでした。本書にも、ALSP普及後の日本の法務の未来予測が記されています。当初予定されていた法曹人口の拡大によるものとは少し違うシナリオではありますが、いよいよ現実のものになりつつあります。

なお、CLOC CORE 12のフレームワークと聞いて、「出羽守的に海外発のコンセプトをゴリ押しされるのは嫌だなあ」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。この点、本書の著者らは「日本で」「日本企業において」この概念を導入するには?をきちんと論じてくださっているのでご安心を。むしろ、みなさん同じような悩みを抱えながら諦めずに歯を食いしばってらっしゃるのだなあと、励まされるはずです。

1人法務にはちょっと早いかもしれず、一定規模の組織への成長過程にある5年目以上の中堅法務の方におすすめの書籍です。本書に示された共通言語と共通フレームワークの上で課題解決の具体的アイデアを共有し合うことで、悩める法務パーソンが救われればと思います。


Legal Operations の実践
商事法務
2024-03-12



【本】『ストーリーでわかる起業家のためのリスク&法律入門』−上場前の1人法務のマストバイ

著者のお一人である三浦法律事務所の尾西祥平先生からご恵贈いただきましたが、そうでなくても、自分で買って書評を書いたであろう、素晴らしい労作です。





先月出版したばかりの拙著『利用規約の作り方』で私が骨を砕いたのは、「法律を知らない方に向けて、法的リスクを共感していただけるエピソードと実例を挟みながら、わかりやすい言葉で法律のエッセンスを解説する」という作業でした。利用規約という限定的な法領域でもそれなりの作業量となり、苦労して書き上げたという自負がありましたが、これに対し本書の著者下平将人先生・尾西祥平先生が、この作業を、およそ企業法務で取り扱うことになるであろうすべての法領域にわたって漏れなくやり切ってしまわれたのが本書です。


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全法分野をカバーしたからこその、583ページ・背表紙35mmという厚み。各法分野・テーマごとに、まず起業家が陥りやすいリスクのあるあるストーリーを創作し、漫画家にもイメージを伝えつつ、そのストーリーに対応させながら法律のエッセンスを法律用語をできるだけ使わずに解説していく。日々法改正や規制のアップデートがされていく中で、想像するだけでも恐ろしい原稿作業量です。優秀な弁護士の方であれば能力的には「できる」のかもしれませんが、これを自分のためでなく、読者のためにやり遂げようという目的意識や自己犠牲の精神があるかは別問題でしょう。

なのにお値段は税別2,600円(!)。1ページ10円という暗黙のしきたりが未だ存在する法律出版社からは絶対出せない、お買い得すぎる価格設定にも驚きです。弁護士から3日間コース・30万円でレクチャーを受けたとしても足りないぐらいのボリュームと質なのにもかかわらず。


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さらに本書の素晴らしい点として、法律のエッセンスの解説だけでなく、以下のような「著者の実務経験上、このへんが勘所/落とし所だと思っている」という主観も、きちんと添えてくださったところを挙げたいと思います。

・設立時の株式数は何株にしておくべきか
・取締役会を設置するタイミングはいつがいいのか
・実務上よく見る契約類型トップ10
・スタートアップが契約書の中で注意すべきクリティカル条項TOP6
・創業者株式の希釈化はどの程度までが限界か
・内部統制上不正出金を防ぐ5つのポイント

安定した大企業で、30人も法務担当者を雇っていれば、リスクや注意点の洗い出しはいくらでもできます。しかし、設立後数年の会社は法務以外にも気にしなければならないことがたくさんある中で、このステージの経営者が知りたいのは「最低限注意しておくべきこと」「優先順位を高くすべきこと」です。スタートアップをよくサポートしてますよと標榜する専門家であっても、ではこの辺についてどう思いますか?と質問してみると、「Aという考え方もあれば、Bという考え方もとりえますね」と玉虫色の回答が返ってきがち。そうしたポイントについて、誤魔化さずにはっきりと文字にして書籍として世に出していただいたことがありがたい。


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個人的には、そんな中でも著者お二人が多く関わっていらっしゃるであろう「創業期」と「IPO直前期」の法的リスクの解説に、高い熱量を感じました。特に、資金調達周りの法務については、会社法上の理論や専門用語について説明できる弁護士はたくさんいますが、なぜその具体的方法が業界スタンダードとなっているか(例えば優先株式が最も多く使われているのはなぜか)という背景知識についてまでは、実はよくわかっていないという方も少なくないように思われます。

この点について、VC・CVC側の立場で書かれたテクニカルな法律書籍はいくつかあったものの、起業家支援の立場のリスクも交えて詳しく、しかもわかりやすく語れるのは、この領域にコミットしている著者お二人のサポート経験の賜物だと思います。


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起業家向けとされている本書ですが、正直、この一冊を熟読した上で、必要な領域について専門書を数冊買い足しながら学習をすれば、スタートアップから上場手前までの1人法務の仕事の8割がたはこなせると思います。

契約締結交渉におけるリーガルマウンティング大全

こんな本が発売されてしまっていいのか?よく企画が通ったな・・・、と驚かされるばかりの、『人生が整うマウンティング大全 MOUNTFULNESS』を、笑いで腹を抱えながら読了しました。


人生が整うマウンティング大全
マウンティングポリス
技術評論社
2024-02-14



タイトルからして大爆笑。

前半のリアルかつボリューミーなマウンティングトーク事例の数々に、まずみなさん圧倒されるはずです。

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この冗談のような調子が最後まで貫くのか?私は何を読まされているのか?という恐怖にも似た感情に襲われ我を忘れかけましたが、中盤から落ち着いた縦書き筆致に代わり、気づくと内容も極めて真っ当なビジネス書を読んでいる自分に気づきました。

「ユーザーに気持ちよく"マウンティング体験"をさせるビジネスをいかに生み出すかが、日本企業がGAFAMに打ち勝つために必要な、これからの企業の勝負所」

という深い学びが得られる、優れた書籍です。

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こうしたマウンティングは、取引先との契約締結のシーンでもよく見かけます。

以下、私が法務担当として身に覚えのある、契約交渉シーンでのリーガルマウンティングの具体例を、初級編・中級編・上級編にわけてご紹介したいと思います。


初級編 こっそり直しておきましたマウント


「第15条だけ、『甲』と『乙』が入れ子になっていたようにお見受けしましたので、私の方であえて修正履歴を残さずに直しておきました。これまで何通も契約締結させていただいてますが、御社の◯◯法務部長様にいつも厳しいチェックで赤字をたくさん入れて頂いて、弊社も助かっています。」


何十条にもわたる契約書を作成していると、ふと集中力を失って甲・乙を逆に書いてしまうことがあります。条項によっては契約相手方を極端に有利にしてしまう、クリティカルなミスともなりかねません。基本的には、相手方から指摘をしてもらったら素直に感謝すべきなのですが、「私(相手方)が甲・乙を直したWordの修正履歴を返したら、いつもたくさんの文言修正を入れてくる細かい性格のあなたの上司にバレて大変でしょ?あの〇〇部長も今回ばかりは見逃しちゃったんですかね?」という余計なお世話とイヤミをあえてコメントするというマウンティング。

嫌われますね。

中級編 そんな論点当然承知してますよマウント


「御社のクラウドサービスの利用を検討しております。いただいた契約書ひな形を拝見しましたが、第30条の免責条項が貴社に故意・重過失があっても免責される条件となっており、無効と思われますので軽過失の場合のみ免責する条件に修正を希望します。え?これは法人間の取引だから、消費者契約法は適用されず、故意・重過失免責も有効ですって?いや、それはもちろん承知しております。私が申しておりますのは、改正民法548条の2第2項に定める不当条項に該当するのでは、という論点なのですが。」


免責条項は、契約交渉においてもせめぎ合いが必ず発生する部分です。その書きっぷりについて、民法の定型約款規制や消費者契約法の特有論点を交えながらの、「そんなのこちらは分かってますし、おたくこそ分かってないのでは?」的な、典型的リーガル・マウンティングの応酬。

仕事とはいえ、面倒ですね。

上級編 御社は英文契約に不慣れなんですねマウント


「"Whearas Clause"に、本契約締結に至る交渉の過程を詳細に記載していただき、お手数をおかけしました。ところで、米国ロースクールに留学した経験がある小生には、どうしても気になってしまった点があります。英文契約のWhearas Clauseとは、契約を構成する約束に法的拘束力を与える根拠としての『約因』がないと無効になってしまう、という判例に影響されて存在しているパートなのは、貴殿もご存知かと思います。しかし、貴社は日本法を準拠法とすることを希望されていますし、記載いただいた内容も単なる契約交渉過程の事実の記述であって約因にも該当しません。見出しを"Backgrounds"と変更し、これらを残す案も考えましたが、やはり不要な記述であり、削除させていただきました。」


英文契約となると、契約交渉の初級者・中級者には知り得ない独特の慣習や言い回しがつきまといます。社内に実務経験豊富な先輩がいたり、米国資格を有する弁護士に気軽に相談できる環境があればこんな事故も起きないはずですが、すべての会社がそうとは限りません。慌てて購入した英文契約のひな形集と首っぴきになりながら見よう見まねで頑張って英作文した長文を、海外留学マウントを交えながらバッサリとカットされたときの虚無感。

法務って、何年やったら修行期間が終わるんですかね。


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