企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

2030年の企業法務と「AIエージェント」

商事法務のNBL 2025年1月1日号に、新春座談会「AI時代の法務—人に焦点を当てて」が収録されています。

三菱商事インハウスローヤーの鈴木卓先生からの「AIによって企業法務はどう変わるか?」「非専門家がAIを使って法的検討や判断をできるようになる『法務の民主化』は起こるのか?」をテーマにした問いの数々に、AI契約レビューサービス4社の代表がそれぞれ意見をぶつけ合う、全22ページのボリュームたっぷりな座談会です。

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AIリーガルテックの直接の競合同士ということもあってか、全体としてはおとなしめの・常識的な発言が多いかなという印象ですが、個人的には、MNTSQ代表の板谷隆平先生の発言が飛び抜けてキレキレで、共感を覚えるポイントが多々ありました。

企業はなぜ内部に法務部門を置くのか


その板谷先生の発言の中でも、私が特に注目したのが以下のやり取りです。

鈴木 2030年というと遠い未来のように感じますが、もう5年後になります。では、5年後どうなっているでしょうか?
板谷 私は(中略)、会社全体をエージェントが動き回って、真に法務が審査する案件を探してくる世界が来ると思っています。つまり、AIというのは標準化する技術ですので、やはり標準から離れるには人間の介入が必要になると思うのですけれども、標準とは異なるリスク、あるいはビジネス的にユニークネスがある案件をエージェントが探し出してきて、法務に手渡しするという世界が来ると思っています。

企業が法務部を設置する意味・価値というのは、突き詰めれば「リソース有限な経営者に代わって、能動的に社内外の法的リスク情報を集め、優先度を判断しながら一定のリスクは自動的に処理し、重大なリスクは直ちに報告し経営判断を仰ぐ」体制ができる点にあると考えます。この点はおそらく皆さん異論はないでしょう。

これに対し、外部の法律事務所のみに頼っている体制の限界は、"社内の法的リスク情報"についてはどうしても外部からは能動的にアクセスできない・察知しにくい、という点にあるでしょう。時折話題になる法務アウトソーシング論の限界も同様にここにあります。

こうした背景を踏まえると、経営者の“代理”としてリスク情報を逃さず拾い上げる仕組みは企業内部になくてはならないわけです。そして、板谷先生が指摘するように、普通は見逃してしまうような社内の法的リスク情報を漏れなく集め分析する役割は、人間よりもAIエージェントの方が優れているだろう、と思うのです。

会社全体をエージェントが動き回って、真に法務が審査する案件を探してくる世界


具体的な事例で考えてみましょう。

たとえば、取引先J社の重要幹部N氏に気に入られることを目的として、自社社員W氏をN氏との酒の席に同席させ、性接待に供するテレビ局があったとします。

「社員を接待に同席させる義務を負う」と真正面から記載された取引先J社との契約書のレビューが法務部門に依頼されたり、事業部から「うちの社員Nを接待に同席させて、Nさんににちょっと色目を使わせるぐらいは問題ないですかねー」といった法務相談があったりすれば、異常事態に事前に気づけて助かりますが・・・普通に考えて、そんな依頼や相談が法務部にもたらされるはずがありません(笑)。

むしろ、被害社員からのSOSすら組織的に隠蔽されるのが残念ながら世の常。そんなことはあってはならないと、いくら法務研修で啓蒙し、組織を浄化しようとしたところで、そうした情報が漏れなく能動的に報告されることは期待できないでしょう。

でも例えば、

・当社はJ社に制作コンテンツ(≒売上高)の多くを依存している
・J社の重要幹部N氏をキーマン条項に定める契約書が複数件結ばれている
・N氏との会合を目的に当社幹部Aが高級ホテルのスイートルームを借りた領収書付経理伝票がある
・スイートルーム予約日の翌日、W氏から上司Bに対し相談を持ちかけたチャット履歴がある
・その直後、W氏が病欠・長期休暇に入った
・W氏の病欠・休暇理由の明確な記録が人事データベースに存在しない

このような状況と情報をタイムリーに察知・俯瞰・分析し、取引先J社N氏と社員W氏間で何らかの重大なトラブルが発生し、それを事業部や人事部が隠蔽しているのではないかというアラートを、法務・コンプライアンス責任者に発してくれる法務AIエージェントがあったらどうだろう、ということです。

現在でも一部の企業では、社内インフラ上のキーワード解析や支出データクロス集計などが進んできています。2030年という時点を考えれば、社内のさまざまなシステムが連携し、AIエージェントが違和感のある異常値や文脈を捉えてアラートを出すことは、技術的にそれほど遠くない未来だと言えるでしょう。

2030年法務AIエージェントは実用レベルに達するか――根拠と懸念


座談会は、「AIの普及によって人(特に社内弁護士)の価値やチャンスはむしろ高まる」という楽観的な結論で締め括られています。

しかし私は、以下の点から、2030年時点で、テキストベースの業務に終始していた法務業務の多くの部分がAIエージェントに代替されているシナリオは十分あり得ると思っています。

1.自然言語処理(NLP)の加速度的進歩:
現在の生成系AIの台頭によって、長文のレビューや文脈理解が既に実務レベルに達しつつある。

2.ビッグデータ分析とクラウド環境の成熟:
従来は膨大なデータを一括で処理することがコスト的にも技術的にも困難だったが、クラウド技術の普及により、社内の複数データソースを一カ所に集めて解析する体制が整いつつある。

3.部門横断のデータ連携ニーズの高まり:
経理・人事・営業・法務といった縦割りからの脱却が多くの企業で課題となり、そこをAIが橋渡しする動きはDX(デジタル・トランスフォーメーション)の流れのひとつ。

もちろん、データの取り扱いやプライバシー保護のルールをどこまで整備するか、またシステム導入コストや人的リソースの再配置といった現実的課題も並行して生じます。AIエージェントがあまりに企業内のあらゆる情報にアクセスすることは、社員の監視強化という負の側面にもつながりかねません。

しかし、「経営者を代理して法的リスクを収集・処理する」のが法務部の存在意義であることを考えると、経営者の立場からはそうした困難を乗り越えてでもAIエージェントに(文字通り)代替させようとするのが自然では、という思いを強くしているところです。

次回予告 契約法務の領域は自然言語から逃れられないのか?


座談会の中では、AIエージェントによる代替が難しそうな法務領域はどこか?という文脈で、このようなやりとりもありました。

鈴木 『Legal Operationsの実践』の座談会の中で、LINE Yahoo!の齋藤国雄さんが「自然言語は時代遅れなのかと思っていた」という場面がありました。(380ページ)。そう思っていたけれども、生成AIが出てきて、読解力がもう一度脚光を浴びると思うようになった、つまり、ある程度のボリュームの文章をきちんと読み解く力が重要になる、ということをおっしゃっていて、その時は、難しいことをおっしゃるなと思っていたのですけれども、つまりは、そういうことなのかもしれないと思うんです。 AIは答えてくれるけれども、やはり言葉をしっかり読んで理解して、それをまた自分の言葉で伝えることというのが、結局また大事になってくるのではないかという気がしています。
板谷 そうですね。少なくとも契約法務の領域は、言語からは決して逃れられないでしょうね。スマートコントラクトなどと言われていますけれども、必ず自然言語を処理する部分は残るとは思います。

私も数年前まではそう思っていたのですが、この契約法務における自然言語依存問題を解決しうるアイデアがあることを最近知り、考え直すに至っています。

この点についてはまた次回に。

【本】『個人情報保護法』― 未成熟論点にあえて切り込む

 
信頼できる著者らによって執筆されてはいても、目次が引きにくく、また索引すらなかった『個人情報保護法コンメンタール』が出てから3年。

その欠点を解消したうえで、令和3年改正による条ズレの反映、個情委ガイドラインの加筆修正内容を含め、最新論点を網羅した同法概説書の決定版がようやく出版されました。


個人情報保護法
松本 亮孝
商事法務
2024-08-02




本書の特徴は、既存の法解釈やガイドライン記載事項の整理・体系化にとどまらず、数度の改正を経てもなお残る個人情報保護法の課題について、「今後はきっとこうなっていく」という見立てを、著者らが弁護士としてサポートする企業の立場から積極的かつ大胆に述べてくれている点にあります。

私自身がパブリック・アフェアーズという職務に携わっていることもあって、法律書を読む際は「これはまだ成熟してない論点だな」と思った箇所には紫の付せんを貼りながら特に注目して読むのですが、本書はそうした未成熟論点を取り上げている量・頻度が他書と比較して顕著に多かった印象です。

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試しに、私が読みながらピックアップした点をいくつか箇条書きしてみると

  • ワクチン接種歴の要配慮個人情報該当性(P75)
  • クッキーの取得と法21条2項適用(P172)
  • AI採用・AI人事評価と保有個人データの「正確・最新性」確保(P180)
  • 実態としては委託であるが提供の根拠は本人同意である場合の、監督義務発生の有無(P255)
  • 第三者提供規制違反は漏えい等報告の対象に含まれるか(P269)
  • ログイン後のページに漏えい報告の表示をすることは通知と言えるか(P305)
  • SaaSのようなアプリレイヤーを含むサービスでもクラウド例外は適用されうるか(P321)

全900ページ弱にわたる本書の冒頭1/3までに限ってもこれだけ興味深い論点に正面から切り込み、そのそれぞれについて結論を曖昧にしたり誤魔化したりせず、企業の実務を知り尽くした筆者らの立場から見解を一旦述べてくれている点は、とても頼もしく感じられました。

このように紹介すると、ややもすると企業に都合の良さそうな見解ばかりを主張する、バランスを欠いた危なっかしい書籍なのでは?と心配される向きもあるかもしれません。著者らはそうした批判に備えてか、本書の元となるNBLの連載全16回の原稿執筆段階において、各回2時間ずつ監修者として名を連ねる宍戸常寿先生とのディスカッションを重ねていていたそうです。そこで宍戸先生から著者らに呈された問題意識や論点の要旨については、「研究者と実務家の対話」と題し、本文とは独立した形で巻末に収録されています。

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条文解説に加えこのような実務見解まで含めた900ページ弱の概説書となると、上級者がピンポイントに分からないことを調べるために辞書的に活用する書籍というイメージを持たれるかもしれません。もちろんそうしたニーズにも十分対応できますが、本書は本格的な概説書にもかかわらず、文章の流れが良く読みやすさにも骨が砕かれている印象です。初学者が中途半端な入門書を何冊も乱読した結果混乱に陥るぐらいなら、間違いのない本書一冊に絞ってじっくりと取り組んだ方が早くマスターできるのでは?というのは言い過ぎでしょうか(いや、決して言い過ぎではない)。

9,000円(税別)というお値段も、ズバリ私が『個人情報保護法コンメンタール』の感想でせめてこれぐらいの値段だったらいいのに〜とつぶやいていた理想価格そのもの。法律書の中では結構高いじゃない、とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、本書に関しては会社購入にとどめず、個人用として購入しいつでも手に取れるようにしておく価値が十分にある、そう断言させていただきます。

余白を探しながら生きる

2024年の私を振り返ってみると、

- 春 利用規約本第3版を出版
- 夏 師に啓発され、躊躇していた大きな買い物をいくつかこなす
- 秋 胃腸が弱ってペースが乱れた分、自分を取り戻すための読書と瞑想に勤しむ
- 冬 1年超かかった法改正プロジェクトを完遂

たった4行で表現できてしまうくらいあっという間でしたが、思い出に残る年でした。

昨年とは大きく違って今年は家族全員が健康に大過なく過ごせましたし、最終日には所属する会社でのミッション達成の知らせももたらされて、公私とも幸せな1年だったと言えますが、くる年を思うと不安もあります。

そんな今の心境に重なるのは、2021年のアカデミー賞作品、『ノマドランド』です。



私自身昔からノマド志向だったことに加え、動画撮影に興味を持ち始めた中で、この作品はほぼ自然光だけで撮られた聞いて興味を持ち、遅ればせながら今年になってこの作品を観ました。

本作品の主人公の生き方を寂しい・心細いネガティブなものと捉えるか、前向きな挑戦とポジティブに捉えるかは人それぞれですが、年齢も重ねたいまの私には両方の意味で深く響くものがあります。

社会の一員としてお預かりしている責任は粛々と果たした上で、特定のコミュニティだけに安住・依存するのでなく、残り多くはない命の種銭をいくつかの可能性にベットして、余白を探し広げる努力を続けていきたいです。

来る年も、私に関わってくださる皆様にとって良い年となることをお祈りいたします。

法務パーソンはいかにしてAI後の世界をサバイバルすればよいのか

 
当初は「しょせんは入力した文字列の次に配置される可能性が最も高い単語の並びを確率によって出力するだけのもの」とみくびられていた生成AIも、気がつけば、人間では絶対に再現不可能なスピードと網羅性で情報を瞬時に検索し、緻密に論理を組み立て、一般人以上の知的レベルや芸術的センスを備えた文章・楽曲・動画をアウトプットする、ビジネス上の実用性も認めざるを得ないツールに成長してしまいました。

こうなってみて、「そろそろホワイトカラーはAIに敵わなくなるのでは」と危機感を感じ始めている方もいらっしゃると思います。私もその1人です。そして、この危機に対処するサバイバル戦略として、「いかにしてAIと同じ土俵で戦わないようにするか」を考えています。

AIは、知能らしきものは持っていても、身体や五感すべてを備えているわけではない現状、いわゆる「記号接地問題」の解消には至っていない、これが弱点のように語られてきましたが、何年か後には、AIが今の知能に加え、身体と人間の五感全てをカバーするセンサーを身につけたヒューマノイドに進化し、記号接地問題を解消する可能性すら出てきています。ただし、現状はそれに至っていない。このタイムラグのうちに、現代のAIが拠り所としている過去の文脈やデータに抗って、「常識的には採用しない選択肢を選ぶ」「これまでの概念をあえてひっくり返す」大胆さが人間にはより求められるのではと。

知識や経験はもはや不要、とまでは言うつもりは毛頭ありませんが、ホワイトカラーの中でも特にそれらに依拠する度合いが強かった法務パーソンは、意識的に軸足をそこから移す、AIがいない新しい土俵に乗り換える勇気が必要なタイミングを迎えているのではないかと考えます。

「瞑想」を取り入れる



その新しい土俵にシフトする具体的手段として、私が注目しているのが「瞑想」です。

でもそれは、リラクゼーションのためのマインドフルネス――いわゆるシリコンバレーで流行ったスタイルとは、ちょっと異なるアプローチです。「瞑想=ただ座って無心になること」と捉えている方も多いですが(私がそうでした)、それだけではありません。瞑想には、思考や感覚をより鋭くするトレーニング的な要素があります。

これを教え、具体的な瞑想の方法論を説く以下の三冊から見えてくる、AIと戦うための瞑想について、ざっくりまとめてみます。

1. ルドルフ・シュタイナー『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』
2. ロジャー・マクドナルド『DEEP LOOKING』
3. ラム・ダス『BE HERE NOW』

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1. シュタイナー式瞑想:思考をとことん鍛える


思考の「捨て方」ではなく「鍛え方」


シュタイナーの瞑想は、いわゆる「マインドフルネス」とはちょっと違います。マインドフルネスは「今ここ」に意識をとどめ、雑念を手放すリラクゼーションのイメージが強い。一方シュタイナーは、むしろ“思考力をよりクリアに扱う”ように自分を鍛錬するプロセスを重視しています。

たとえば花や結晶、幾何学図形などを心の中でくっきりとイメージし、その背後にある生成プロセスまで思いを巡らせる。集中力と観察力を研ぎ澄ましながら、五感で捉えきれない何か「超感覚」を得られるようになります。

法務との相性


企業法務は、条文や判例を読み込み、文書を作り込む論理力が求められる反面、「実際の現場はどう動いてる?」といった肌感覚も大切なのは、ある程度の経験を積めば共感していただけると思います。シュタイナー式瞑想は、後者の“現場感覚”を磨く前段階として、まずは自分の「思考」を冷静に扱えるようになることを目指します。

自分の考えをクリアにし、情報を精査できる頭脳を鍛えてはじめて、AIが提示した答えに対して「本当にそれでいいのだろうか」と突っ込めるわけです。「いま世の中にないルールや概念を作るなら、どういう視点がいるのか」という発想にも、筋の通ったアプローチができるでしょう。





2. ロジャー・マクドナルド式「DEEP LOOKING」:内外を深く観察する


科学と瞑想をブレンド


マクドナルドの『DEEP LOOKING』は、表向きアートの鑑賞法を説いた本のようでいて、自分の内面を見つめる具体的ステップを説いた本です。西洋的な科学精神やデータ重視の思考を組み合わせて、「人間の意識や感覚を、より客観的かつ深く観察する」メソッドを紹介しています。

外界に起こっている事象と、自分の内面に起こる感情・思考の変化を往復しながら注意深く見る。これによって、「あ、自分はこういう刺激に対して、こんなふうに思考が暴走するクセがあるんだな」と気づけるようになる。いわば“内省”の徹底強化版です。

ビジネスの交渉やリスク発見に活かす


法務パーソンにとっては、交渉や会議で相手が微妙に焦っているとか、イライラしている気配に気づくかどうかが、勝負を決めるポイントになったりします。また、新しいビジネスモデルを検討しているとき、「ここのリスクは誰も言及していないけど、なんだか気になる」といった直感を具体化できるかが重要です。

DEEP LOOKINGを実践すると、自分の身体や感情に起こる些細な変化を「データのように」正確に見つめられるようになるので、結果として相手の反応や場の空気も俯瞰しやすくなる。これは、AIのロジック分析や機械式のセンサーでは拾いきれない情報をキャッチする“生体レーダー”を強化する手段といえるでしょう。


DEEP LOOKING 想像力を蘇らせる深い観察のガイド
ロジャーマクドナルド
AIT Press
2022-06-30



3. ラム・ダス式「BE HERE NOW」:発想を大胆に飛躍させる


今ここに集中して、未来をつかむ


「BE HERE NOW」――言葉の通り、「今この瞬間」に深く入り込む瞑想です。吸う息・吐く息に集中することで雑念を捨て、宇宙と一体になるような感覚をめざす。ヒッピーカルチャーや東洋の神秘思想も背景にあるからこそ、自由で、枠にとらわれないスタイルです。

シュタイナーやマクドナルドの方法が「意識を研ぎ澄ませる」イメージだとしたら、ラム・ダスは「思考を超えてしまう」イメージに近いかもしれません。理屈っぽく考えてしまう自分を一旦横に置き、とにかく呼吸や音に身を委ねる。ユニークなアイデアや発想が湧き上がってくるその瞬間を目指します。

常識を壊して新しい価値を生む


法務の仕事は、どうしても常識やルールに縛られがちです。でも、それを逆手にとって「既存の概念を壊すことで、面白い世界が作れるんじゃないか?」という憧れに似た感情もあるはずです。新規ビジネスの法的枠組み作りなどは、まさにそうした破壊的思考が求められます。

ラム・ダス流の瞑想は、「頭で考えすぎる自分」を一瞬オフにする働きがあるので、AIでは生み出せない奇抜なアイデアや、将来的に革命的な意味を持つルールを提案する“ひらめき”を促進してくれるかもしれません。「論理的に正しいかどうか」から離れて、一旦すべて可能性を開いてみる。その余白こそが、新しい価値創造の種となります。


ビ-・ヒア・ナウ: 心の扉をひらく本 (mind books)
ラマ ファウンデーション
平河出版社
1987-11-30



まとめ:3つの瞑想アプローチをどう使うか


1. シュタイナー式(思考を鍛錬し、クリアにする)
AIの論理を検証し、人間ならではの“次の一手”を描くための頭脳づくり。
条文や判例に振り回されず、「そもそも何が正義か」を落ち着いて考え抜く余裕が生まれる。

2. マクドナルド式(客観的な深い観察で内外をつなぐ)
相手や場の空気、身体の反応を丁寧に“データ化”するイメージで観察し、交渉やリスク管理に活かす。
感情のクセを把握し、過剰反応を防いで冷静な判断ができる。

3. ラム・ダス式(思考を超える、常識を突破する)
“今ここ”に意識を集中し、徹底的に思考を手放すことで大胆なアイデアや常識を壊す発想を得る。
新しいビジネスモデルや法的フレームワークをゼロから創造するときに役立つ。

AIと同じ土俵で戦わない


これら三つのアプローチに初めて触れた方には、やはりスピリチュアルに映るかもしれませんが、だからこそ試してみる価値があると思っています。AIが得意なことが「過去の膨大な情報から最適解を見つける」であるならば、人間は“まだ体系化・言語化されていないルール”を見出したり、“まだ誰も気づいていないリスク”を嗅ぎ取ったりする方向に軸足を置くべきだと思うからです。

頭の中をクリアにするシュタイナー式、内外を深く観察するマクドナルド式、思考を超えて飛躍するラム・ダス式――いろいろな瞑想のスタイルを組み合わせることで、「ロジックやこれまでの常識では説明しきれない世界」にアクセスしやすくなります。シリコンバレー流のマインドフルネスが、「呼吸して落ち着く」ための手法だとしたら、これらの方法は自分自身に根源的な変容を促す手法と言えます。

情報量と処理スピードの勝負でAIに正面から挑むのは得策ではないと思わざるを得ません。AIと正面から組み手を取るのではなく、AIがいない領域で成果を出す。そのために必要なのは、膨大なデータをさばき、汗をかいて(労働量で)なんとかする力よりも、今は形になっていないアイデアや新しい価値観を生み出すセンスではないでしょうか。そして、その種はきっと私たちの内側にすでに埋まっています。

法令上「文書」とは紙

 
「書面」が紙に書かれたものを指すことは理解していましたが、「文書」は紙(有体物)に書かれたものを指す語であり、したがって「電子文書」はよろしくない用語法であることを、恥ずかしながらこの年の瀬になって学びました。

これを知ったきっかけは、西村あさひ法律事務所に転籍されご活躍の水井大先生から「イチオシ」と教えていただいたこの書籍を読んで。


法令表記ルールと実際 (KINZAIバリュー叢書L)
高橋 康文
金融財政事情研究会
2024-08-27



法令において「文書」と規定されている場合、有体物を前提としている。(略)電子的な手段によって作成された情報(電子データ)は、それ自体は無体物であり「文書」ではない。


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本書はこの後、文書の「原本」と「写し」の概念、そして「電磁的記録」の厳密な用法解説へと展開。

クラウド上にある契約書の電子ファイルを、ローカルの物理ドライブにダウンロードして保存した場合、クラウド上のファイルは原本か?クラウドからダウンロードしたファイルはその「写し」か?といった、インターネット時代の法務担当者であればうっすら感じたことがあるはずの疑問に答えてくれます。

今年4月に刊行された白石忠志『法律文章読本』が評判となったように、法令における用語法を説く良書は枚挙にいとまがないところですが、本書は、そうした体系的・網羅的な法令用語集をすでに何冊か読んで腕に覚えのある方にも歯応えと学びのある、それでいて現代的な論点ばかりを取り上げた隠れた良書です。
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